+ イルミネーション +

「イブにイルミネーションを見に行かないか?」
 そう月森から誘われたのは20日くらいだったか。
 誘われた香穂子はもちろん頷いた。
 クリスマスと言えば、カップルにとってデートは外せない日だから。何より月森と過ごせる時間が増えるのが嬉しかった。
 そうしてイブの日になって、学校が終わってから一度別れ、着替えてから待ち合わせをした。
 そして今にいたる。
 待ち合わせ場所にすでにいた月森に、香穂子は微笑みかけた。
「えへへ」
「どうかしたのか?」
「なんかね、嬉しいなと思って」
 クリスマスを月森と過ごす幸せを、香穂子は素直に述べる。
 そうすると、こちらは無意識の表情が素直な月森。少しだけ頬を上気させ、なんとも穏やかな笑みを浮かべた。
「そうだな」
 二人が来ている臨海地区のイルミネーションは豪華だ。
 香穂子は色とりどりに輝くツリーやモニュメントを眺めながら言った。
「でも意外〜。月森君がこういうのに興味があるなんて」
「……変だろうか? いろいろな音楽を奏でる上で、こういったものを見た時の気持ちも、大切だと思うようになっただけなんだけれど……」
 そう言いながらも月森は照れくさくなったらしく、香穂子から視線を外しつぶやいた。
「その……君の隣でいろいろなものを感じたいと、そう思ったので……」
 二人の会話を聞いている知り合いがいるとすれば、あまりのクサさに逃げるとかからかうとか砂を吐くとかするだろうけど、初めてのクリスマスを迎えるカップルなんてそんなもの。
 照れて視線をそらす月森に香穂子は慌てて言った。
「全然変じゃないよ。ただ月森君なら、クリスマスならコンサートとかに行きそうだなぁって」
「……それも考えていたんだが」
 でも今回はチケットが取れなかったのだと、月森は言った。
「そっか……じゃあ来年行こう!」
「ああ、そうだな」
 もう来年の話なんて気が早い。月森はそう思ったけれど、静かにただ微笑んだ。
「あっ、ねぇ。あっちも見に行こうよ!」
 香穂子は月森の腕に自分の腕を絡めて言った。
 寒さのせいで周りの恋人達は皆くっついている。だから自分達も気にせず寄り添った。
「ずいぶんと人が多いな」
「そりゃあ有名だもんね、この巨大ツリー」
 年々豪華になっていくイルミネーション。そして年々多くなっていくカップル達。
 巨大ツリーは遠くからながめるだけにして、二人は違う場所に足を向けた。
「……どこも人が多いな」
 ため息混じりに月森が言う。覚悟はしていたけど、これほどとは思わなかった。
「月森君、人混み嫌い?」
「嫌いと言うより苦手だな」
「うん実は私もー」
 二人は視線を交わしあって苦笑いする。
「じゃあ、前に一緒に行った公園行こうよ!」
「公園……ああ、あそこか。でもあそこは暗いから危ないだろう」
 香穂子がこことはうってかわって静かで暗い公園に行くことに、難色を示す月森。
 だが香穂子は何でもないことのように笑った。
「月森君が一緒だから大丈夫!」
 それにどう思ったのか、月森は“香穂子がそう言うのなら”と微笑んで頷いた。
 人気のない道を香穂子と二人、丘の上の公園に向かって歩く。
 歩いてる最中は二人して無言だったが、それだけでも二人は十分満足。
 公園は静かだったけれど、臨海地区の夜景が見えるためか二、三カップルがいた。でもさっきとは比べものにならないくらい、自分達の時間を過ごせるような気がした。
「綺麗だね」
「ああ、そうだな」
「なんかさ、こういう雰囲気になると弾きたくならない?」
「……確かに」
 音楽のしもべはくすくすと笑いあう。
 でもだって、今の気持ちを音にのせることができたら、どんなに嬉しいだろう。音楽は自分の感情と共にある。そんな気がするから。
「……でも残念」
「うん?」
「もしヴァイオリンを持ってても、寒くて指が動かないよ」
「確かに」
 手袋をしていても手が冷える。香穂子は手袋の上から息を吹き掛けて温めた。
 月森がその手をさらい、自分の手と一緒にコートのポケットに入れた。
「よければ明日、俺の家で練習しないか?」
「いいの? 行きたい!」
「なら明日の1時、駅前に迎えに行く。それでいいだろうか?」
「うん。そだ、クッキーでも焼いていくね」
「楽しみだ」
 言いながら、恋人たちは一層寄り添った。
 眼下では今日と明日盛大に輝く夜の世界が広がっている。
 しかしどうやら、薄闇に包まれた公園にいる二人の心も、同じくらい輝いているようだった。

 

〜 あとがき 〜
 暴露しますと……「2年目のクリスマス」で友雅とあかねが行った公園はココですー(吐血)
 てか星奏学院は横浜にあるのでせうか??
 資料を見れば見るほどそう思う。そんな私は横浜人。
 スチル背景の、あれもこれも場所知ってるよ……とか思っちゃうのですネ〜(笑)

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