+ 約 束 +

「もう! 何やってるんですか!」
 香穂子は部屋に入るなり、怒り3の呆れ7で言った。
「まったく、いきなりパーティに行けなくなったってメールが来るから何かと思えば……」
「香穂ちゃん……ごめん、風邪引いちゃって」
 香穂子の視線の先にはベットでぐったりしている火原がいる。
 熱に頬を赤くして、額に冷えピタを貼って。見た人10人が10人『風邪を引いている人』と思うような病人っぷりだ。
 ベットの脇にすとんと腰を下ろし、香穂子は続ける。
「そりゃぁみだりに雪遊びして雪被ったのに着替えなきゃ風邪も引きますよ! オマケに『女の子は体冷やしちゃダメ』とか言って私に手袋とマフラー貸して……それなのに自分が風邪引いてちゃ意味ないじゃないですか!」
「……まったくその通りでございまス」
 何も言い返せなくて、火原は掛け布団に顔を隠した。
 うぅ。俺、かっこ悪い。彼氏っぽく彼女の心配をしたが為に風邪引いたなんて。
 さっき兄に大爆笑されたのを思い出し、ますます恥ずかしくなった。
 しばらくして香穂子の表情を伺うようにすこしだけ顔を出すと、香穂子は心配そうな顔をしていた。もちろん呆れや怒りも入っていたけれど、それでもやっぱり、心配そうな顔をしていた。
「……ごめんね、約束、守れなくて」
 今日はこれから、二人で学校でのクリスマスパーティに行く予定だった。
 折角約束したのに、自分が風邪を引いてしまったばかりに。
 火原の謝罪に、香穂子は苦笑いめいた微笑みを浮かべて首を振った。
「仕方がないですよ。そんな様子じゃ行けないし。早くよくなってくださいね」
「うん、ごめんね……」
「大丈夫ですったら」
 さっきまでの表情は消え、香穂子は火原の大好きな笑顔を浮かべた。それが一層火原の心を痛ます。
「そうだ、香穂ちゃん、俺に構わず行ってきてよ!」
「えっ?」
「パーティ。きっと楽しいからさ」
「い、いいですよ。私ここにいます。火原先輩のこと、一人にしておけないし……」
 火原の家族は今日は留守だ。火原の兄もさっきまでいたが、香穂子を向かえてくれたのと入れ違いに出掛けたようだった。
 そんな家に病人を一人にしておけなくて、香穂子は夜までいるつもりでいた。
「俺は大丈夫だよ、大した事ないし……」
 だが、言ってるそばからゴホゴホと咳き込んでいる。
「全然大丈夫そうじゃないんですけど……」
「だ、大丈夫だって! それより行ってきなよ。こんな所にいても退屈でだよ? 風邪移っちゃうかもしれないし」
「退屈なんかじゃないです。風邪移っても別に……あっ、もしかして私、いると迷惑ですか?」
「とんでもない!! 嬉しいよ! でも君に風邪が移っちゃへっくしょん!」
 言葉の最後はくしゃみで台無しになった。
 再びかっこ悪い自分を落ち込みかけたが、気を取り直して火原は香穂子に言った。
「こんなところにいてもさ、退屈なだけだよ。それよりもパーティ行っておいしいもの食べたりオケ部の演奏聞いてきたりしなよ。俺がいなくてもさ、楽しいはずだから」
「…………いいの?」
 幾度となくパーティをすすめる火原に、香穂子は真面目な顔で言った。
「もちろん。楽しんでおいでよ」
「じゃなくて、火原先輩は、私が傍にいなくていいの?」
「えっ?」
 香穂子が言っている事を一瞬計りかねて、火原は香穂子を見上げた。
 香穂子はただじっと、火原を見ている。
「先輩は、私に傍にいてほしいとか、そういうこと思ったり、しない?」
 言葉をつむぐ香穂子は、どことなくしょんぼりしているような気がした。
「香穂ちゃん……」
「私は先輩の傍にいたいです。パーティなんかより、ここにいたいです。火原先輩が風邪引いてるのにお家の人いなくて、でもそんなこと本当は関係ないくらい、ここにいたいだけなんです」
 それでも、先輩はパーティに行っておいでって言うの?
 言葉を切って黙った香穂子の表情が、そんな風に言ってるように見えた。
 火原はどう言ったものかかなり迷い、何度も口を開いては躊躇うを繰り返し、そして言った。
「やぱり、傍にいてよ、香穂ちゃん……」
 そう言うと、香穂子は花びらが開いたようにふわ、と笑った。
「はい!」
 暖かな空気の流れる部屋の外では、一度は止んだ雪が再び舞い落ちてきていた。
 白い絹を幾重にも重ねて、純白の世界を作り上げていくのだろう。

 

〜 あとがき 〜
 ……というわけで「もみの木」的微妙に後日談です。
 彼らはあの後カラオケ行って美味しいもの食べたら、外が雪降ってたんですね〜。
 猛烈に振り出した雪はうっすらと積もったらしくて、公園に行って足跡つけまくったりしたかもしんないですね〜。
 んで火原は風邪引いた、と。や〜い!

 時に、この話一つワナを仕掛けました。腐女子は引っかかると「アイター」と思うかもしんないです(笑)
 それでも知りたい方は ↓反転↓
 火原は「みだり」に雪遊びしたらしいっすよ!!(大笑)
 これを「みだら」って読んだ方がいたら、私と同類だねフフーン♪
 さらに想像なんかしちゃったりしたときには……!!
 ちなみに【みだり】とは「分別なく行うさま」の事です。
 香穂子さんは現代女子高生だから、こんな言葉使わないだろうと思ったのですが、このワナの為にあえて(爆)

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