+ 贈り物 +

「土浦君メリークリスマス!」
 そう言って香穂子が差し出したのは、クリスマスカラーにコーディネイトされた包み。
 雑誌大の平たい包みを受け取り、土浦は笑顔を見せた。
「メリークリスマス。……悪ぃな、俺はもう少しあとだ」
 今日はクリスマスイブで終業式だから、二人はこれからデートだ。
 女の喜びそうなプレゼントなんて、何にしたらいいかわからない。土浦は、自分にはこの手のセンスが欠落していると思ってる。だからクリスマスプレゼントの話が出た時に、土浦は香穂子にデートの時に気に入った物を買ってやる。そういう風に贈ることにしていた。
 教室には今、二人の他誰もいない。ほとんどの生徒は下校していて、校内は静まりかえっている。かく言う二人もこれから、下校&クリスマスデートだ。
「うん、楽しみにしてる。それ大きいから、今のうちに渡した方がいいかなって思っただけだし」
 と香穂子はにこにこしながら言った。
 なんだかすごく嬉しそうである。土浦との初めてのクリスマスだし、これで浮かれないとしたら、青春という言葉が泣くだろう。そんな感じだ。
「……開けていいか?」
 香穂子が期待した目で見つめてくるので、土浦はリボンに手を掛けた。
 どうやら土浦の読みが当たったらしく、香穂子は嬉しそうに頷く。
(何がそんなに嬉しいのか……)
 目に見えてご機嫌な香穂子を見て、土浦は苦笑した。苦笑と言うより仕方のないヤツ。といった感だろうか。何だかんだ言いつつ、子供っぽい香穂子のリアクションを、好ましいと思っているのだから。
「……コレ」
 中から出てきたのは、土浦が欲しがっていた楽譜だった。
「うっわマジか!? って言うかいいのか!?」
 特に取り立ててすごい楽譜じゃない。しかし土浦の好きな曲がたくさんセレクトされていて、前から欲しいと思っていたのだ。
 だがこの楽譜、少しお高い。今度今度と思いつつ、ついつい買う機会を逸してしまっていた。
「本当にこんなのもらっていいのか?」
 めずらしく子供のように無邪気に喜ぶ土浦。
 香穂子はそれが嬉しくて、何度も頷いた。
「もちろん! ……よかったぁ。もし買ってたりとかしたらどうしようかと思ってた〜。でもそれ以上に“これだ!”って思うプレゼントがなくて……」
「自力で買うとしたらまた先延ばししてたな。本当、嬉しいよ。ありがとな、香穂」
「うん」
 香穂子の頬に触れながら礼を言うと、香穂子は少し照れたように笑った。
「おっと。あぶねっ」
 楽譜集をもと通り包装紙に包もうとして、土浦は手を滑らせ楽譜集を落としそうになった。
 それを危ういところで押さえたのだが、楽譜集の最後の方に挟まれていたらしい小冊子が落ちてしまった。
「わりっ。……って、この楽譜こんなの付いてたか?」
 拾って見てみると、楽譜集より一回り小さいそれは、何やら装丁も違うようだ。
 くるっとひっくり返すと、アイボリーの紙に金の文字で「Merry Chiristmas Mr. Lawrence」と書いてあった。
「……香穂?」
「えっ、え〜っとぉ〜。えへへ」
 意図を伺うような視線を向けると、香穂子は照れたような誤魔化すような表情で明後日の方向を向いた。
 これは「弾け」というメッセージだろうか?
 ………………だろうな。
(……面白いくらいわかり易いなオイ)
 土浦はため息と共に苦笑した。
 そうしていきなり立ち上がると、鞄を掴んで教室のドアに向かった。
「行こうぜ」
「えっ、土浦君? どこ行くの!?」
 慌ててあとを追ってくる香穂子に、土浦は振り替えってにやりと笑った。
「決まってるだろう? コイツを弾きにだよ」
 そういってアイボリーの楽譜をかかげてみせると、花が開花したように香穂子が笑った。
 くすぐったい気分になり、土浦はわきに追い付いてきた香穂子の頭をポンと叩いて引き寄せる。
「どこ行く?」
「とりあえず練習室だな。今日ならどこか空いてるだろ。じゃなければ音楽室」
「会議室でもいいよね、あのほとんど物置化してる……」
「あそこは却下。あのアップライトはほこりが積もって弾きにくい」
 他愛ない会話をしながら、二人は特別教室棟へ向かう。
 やがて練習室の一角から、美しい旋律が響いてくるのだった。

 

〜 あとがき 〜
 ……はひょ。お題って難しいですネ〜(滝汗)
 なんか「贈り物」つーよりただの「クリスマスプレゼント」ってな感じになっちゃいました。
 ちなみにMerry Chiristmas Mr. Lawrence(戦場のメリークリスマス)大好きです。

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