休 日

―――ピンポ〜ン


「…………」


―――ピンポ〜ン ピンポ〜ン


「……もう行っちゃったのかなぁ……」
 でも、まだ時間には早いよね? 時計とにらめっこしながらあかねは思う。
 あかねが立っているこの場所は、友雅が住んでいるマンション、部屋の前。
 あと一時間ほどしたら、友雅の今日の出勤時間となる……はずである。
 大学の講義が休講になったので、訪ねてきたのだが……。
「せっかく時間があいたのになぁ……。最近会ってなかったから、会いたかったのに……。あ、でも、せっかく来たんだし、買ってきたケーキ、置いていこう」
 あかねは貰っていた合い鍵を取り出し、ドアを開けた。
 部屋に入ると、いつもの見慣れた空間が広がっていた。2LDKの広いマンション。あまり物は置いてないが、寂しい雰囲気はない。相変わらずよく片付いている部屋だ。
 ケーキにメッセージをつけて冷蔵庫に入れると、寝室の方から衣擦れの音が聞こえた気がした。
「? 友雅さん寝てるのかな?」
 ちなみに、友雅の職業はモデルである。現在赤丸人気急上昇中。その幅は主婦から年上趣味の小学生まで。あまり仕事を取らないたちだが、人気のせいで最近忙しくなってきたらしい。
「友雅さ〜ん。そろそろ起きないと、遅刻しちゃいますよ〜?」
 寝室をのぞき込みながらそう言うと、確かに人型に膨らんだベットを発見する。
「友雅さ〜ん?」
 ベットに近づいた。友雅は寝ているようだ。
 と、友雅は突然目を開けた。とっさのことで反応できないあかねを横目で見ながら起きあがり、そのままあかねをベットに押し倒した。
「おはよう、愛しい姫君」
「と、友雅さん!! ひっどぉ〜い! 狸寝入り!?」
 友雅はくすくすと笑って、あかねに口付けた。
「早く用意しないと、遅れちゃいますよ〜!?」
 少しふてくされながらあかねは言った。本心は、このままこうしていたいけど……。
「さて、どうしたものかな。久しぶりにあかねが遊びに来てくれたことだし、今日は休んでしまおうか」
「そういうわけにもいかなでしょ? 起きて下さい」
「おやおや、つれないねぇ。君は私と一緒にいたくないのかい?」
「またそういう……。一緒にいたいに決まってるじゃないですか! でも、お仕事休むのもダメですよ」
 あかねはクギをさした。やれやれ、というふうに苦笑する友雅に違和感を感じる。あれ? 友雅さん、なんかいつもと違う……?
 突然、友雅はあかねに覆い被さった。
「と、友雅さん!! ふざけないでってば!! ……って、熱い!!」
 あかねは慌てて起きあがって、友雅の額に手を当てた。熱がある。それもかなり熱い。
「友雅さん。熱があるじゃないですか!?」
「ああ、少し……熱いようだね」
「少しなんてもんじゃないですよ!? 薬飲んで寝なきゃ!! 今日はお休み!」
 友雅をベットに押し込みながらあかねは言った。
「おやおや、君が言ったんだよ? 仕事を休むな、とね」
 体を起こしながら友雅が言う。
 それを再び押し込みながら、あかねは反論した。
「さっきとは話が違います! そっちこそ“今日は休もうかな”なんて言ってたくせに。マネージャーさんに電話してきますね」
「あかね……」
 引き留めようとしたが、体に力が入らない。
 やれやれ、思ったよりまいっているようだね。私も若くはないということかな。
 風邪のせいで、少しマイナス思考の友雅であった。




 友雅がうっすら目を開けると、良い香りが鼻孔をくすぐった。懐かしい香り。……これは、侍従の香か?
「あ、友雅さん。気がついたんですか? よかった。大丈夫ですか?」
「……私は眠っていたのか。ああ、さっきよりは良いようだよ。ところで、この香りは……?」
「あ、友達が京都に行くっていうから、頼んだんです。本当は誕生日のプレゼントにしようと思ってたんですけど。今は、リラックスできるからいいかな? と思って」
「ああ、懐かしい香りだね。落ち着くよ」
 色づいた空気を深く吸い込み、友雅は深呼吸した。
 よかった。というふうに、にっこり笑ったあかねは、
「お粥作ったんですけど。食べられます?」
「ふむ、あまり食欲はないが、あかねが作ったものならば。少しいただこうか」
 はい。と返事して、あかねはキッチンへ向かった。
 少し汗をかいたかな? そんなことを思っていると、まもなくあかねが帰ってきて、友雅に鮭フレークの入ったお粥を差し出した。
「その……。あんまりおいしくないかもしれないけど……」
 友雅は、お粥を一匙すくって食べた。
「いや、おいしいよ。あかねが作ってくれたものだしね。私には何にも勝るものだよ。これで、あかねが食べさせてくれれば、もっとおいしいのだけれどね」
「もう、友雅さんてば。でもよかった、いつもの友雅さんに戻りましたね」
 お粥の器を受け取りながらあかねは言った。
 お粥をすくって、冷ましてから差し出す。
「はい。あ〜ん」
 友雅はさも当然のように、あかねの手からお粥を食べた。

「ふふ、とてもおいしくて、癖になってしまいそうだよ。これなら、ずっと風邪を引いていてもいいな」
 あかねは少し照れながら言い返した。
「何言ってるんですか。一緒に出かけられなくなっちゃうじゃないですか。そんなのつまらないですよ」
 友雅は薄く笑い、
「そうか、そうだな。……ところで、大学の方はどうしたんだい?」
「あ、休んじゃいました。授業が一つ休講になっちゃったし。そうすると、あと一つ授業があるだけなんだもん。友雅さんが心配だったし」
「それは悪いことをしたね。私は大丈夫だったんだが」
 あかねは頬を染めてうつむきながら、ごにょごにょと付け足した。
「だって……このところ、ずっと会えなかったし、だから、その……。側にいたかったんだもん」
 友雅はあかねを引き寄せて、頬に軽く口づけした。
「では、風邪に感謝することにしよう。今日は何でもかんでも甘えるから、覚悟することだね」
 あかねはにっこり笑って、頷いた。
「任せて下さいvv」


―――ピンポ〜ン ピポピポピポピポ ピンポ〜ン


「誰か来たようだね。マネージャかな?」
「あんな鳴らし方するのは、天真君くらいだってば」
 ちょっと脱力しながら立ち上がる。
 ドアを開けると、案の定天真、それに詩紋がいた。
「よぉ、友雅が倒れたんだって? 友雅が弱ってる姿なんぞ、めったに見られねぇからな。遊びに来てやったぜ」
「……あ、そう」
 なんだか、どっと疲れたような気がするあかねだった。
「ごめんね、あかねちゃん。ボク止めたんだけど……」
 慌てて詩紋が付け足す。
「べつに、詩紋君のせいじゃないよ。気にしないで」
 笑いながら言う。
「ちょっと待て、お前ら。そんじゃ、オレのせいみたいじゃねぇかよ〜」
「はいはい。とにかくあがって」
 とりあえず、天真と詩紋をリビングに案内し、友雅を含めた全員分のお茶を用意し始めた。
「でもよかった〜。ケーキ買ってきてたんだけど、友雅さん食べられないだろうから、どうしようかなって思ってたんだ」
「ほら見ろ。オレのおかげだぜ」
 偉そうに胸を張りながら天真。
「あとで、ランも来るけど、かまわねぇよな」
「うん」
「やれやれ、この家の主は私なのだがね」
 ため息をつきながら、ガウンを羽織った友雅が寝室から出てきた。
「友雅さん。起きあがって平気ですか? 今、お茶を用意してから寝室に行こうと思ってたのに……」
 気遣いながら、あかねは言った。
「友雅さん、お邪魔してます。大丈夫ですか?」
 と、これは詩紋だ。
「なんだよ。結構平気そうじゃねぇか」
 言うまでもなく、天真。
「ご心配をおかけしたね。あかねが看病してくれたから、もう平気だよ」
「友雅さん、一応聞きますけど、ケーキは食べますか?」
 一応を強調して言ったあかねに、友雅は少し苦笑しながら、
「さすがにケーキはやめておくよ。お茶だけ頂けるかい?」
「はい。わかりました」
 場所を寝室に移し、友雅は、またあかねによってベットの中に押し込められた。
 しばらくしてランも加わり、しばしのお茶会が催された。
「あ、そうだ。あかねちゃん、コレ授業のノート」
「わぁ、ありがと〜。ランちゃん」
 嬉々としてノートのコピーを受け取るあかねを、微笑ましく見つめながら友雅は思う。
(君といると、本当に退屈しないな
今、自分がここにいることを不思議に思う。本来ならば、住む世界は違い、ありえない出会いだった。……龍神のお導きか。不思議なものだな)
「? 友雅さん? どうかしたんですか?」
「あ、いやね。あかねは本当に可愛らしいと思ってね」
「な、何言うんですか、友雅さん!? こんなところでいきなり!!」
 あかねは首まで真っ赤にして叫んだ。
「そこがまた可愛らしいね。君を一生手放さないから、覚悟しておきなさい」
 見ると、天真やランは、あんぐりと口を開けて見守っているし、詩紋は頬を染めて上目遣いで恐る恐る見ている。この空間も退屈しない。
 とうとつにランが話題をそらした。
「そうだ。そういえば詩紋君、彼女できたって本当!?」
「なにぃ!!」
「知らなかったぁ〜!」
 とたんに会話はそちらに流れていく。
 質問責めにあわされている詩紋は、顔を真っ赤にして、どもりながら答えている。
 天真は、デートはああでもないこうでもないと、いろいろ伝授しようとしては、ランに彼女がいないことを突っ込まれる。
 にぎやかな宴のようで、懐かしさを覚える。だが、遙かな昔の自分は、この様に心から宴を楽しんではいなかった。どこか冷めた目で周囲を見つめていた。
(どうやら宴は、遅くまで続きそうだな……。やれやれ、私は一応病人なのにね。まったく……)
 ため息とは裏腹に、状況を楽しんでいる今を発見する。
(これも、月の姫の魔力かな……?)
 昔の止まっていた時間を思い出し、そっと、目を伏せた。
(今は、動き出した時間の流れに、たゆとうていようか……)

 

〜あとがき〜
わ〜い。友雅さんか弱ってる〜vv(核爆)
いや、たまにはこんなのもイイかな〜などと思いつつ……ね。
そんなことを考えていたら、ちょっとクセになっちゃったカンジです(笑)

睦月奈央さまから挿し絵を頂きましたvv エヘッvv
さっぱりと甘々ですよ〜。 友雅さん胸はだけてますよ〜。
うふ、うふふふふふふ、うふふっ(←あやしい)
素敵なイラストをありがとうございました!!

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