今日はこの月は隠れないから

 あかねは悩んでいた。
(6月11日まであと一週間……)
 恋人である友雅の誕生日があと一週間ほどで来てしまう。
 それなのに何をプレゼントするかが全く決まっていないのだ。
 どうせプレゼントするなら相手が喜んでくれるもの、びっくりするもの、持っていないもの……。
 そうは思っても以外に選択しは少なく、一向にこれだと思うものがないのだ
 現代に来て初めての誕生日には香をあげた。その次の年には時計。手作りのお菓子だったこともあった。
 時間は経てば経つほどネタがなくなってくるものだ。
「……………」
 食器を洗いながら、キッチンのカウンター越しに友雅を見る。
 友雅はコーヒーを飲みつつテレビを見ていた。
(ほしいものを聞いても、なさそうだしな〜)
 相手は社会人。ほしいものは自分で購入するだろう。
 例えあったとしても、自分より経済力のある者の買えないものであるから、絶対に無理だろう。
 あかねはため息をついて最後の食器を乾燥棚に収めた。
 自分の分の紅茶を入れて、友雅の隣に座ると、友雅が顔を上げた。
「ああ、終わったのかい? ご苦労様」
 そう、穏やかな感謝のほほ笑みを向けてくれた。
 その笑顔を見て、あかねはまたまたため息をついた。
(聞いてみようかな? でもまた君がいれば十分とか言うんだろうな)
「それを飲んだら送っていこうか。あまり遅くなってはお父上たちが心配するからね。……なんだい?」
 じっと凝視するあかねに、友雅は不思議そうにたずねた。
「友雅さん。今度の誕生日、プレゼント何がいい?」
 問われた瞬間目をぱちくり。
 そして友雅は、カレンダーを見てああとつぶやいた。
「別に欲しいものなどないよ。君がそばにいてくれるからね」
 ……やっぱり。心の中であかねはそうつぶやいた。
 不服そうなあかねの表情を見て、友雅は苦笑しながら付け足した。
「もともと私には誕生日を祝うという概念がなかったし、何物にも代えがたい君という月を手に入れたのだからね。本当にそれで十分なのだよ」
 あかねはぷくっと膨れた。
「そんなこと言って! 私の誕生日には毎年素敵なプレゼントくれるじゃない!」
「それがこちらの習慣なのだろう? それに私には贈り物をあげることしかできない。君は抱えきれないほどの安らぎと幸せをくれるのに、ね」
「そっ!」
 それはこちらも同じだ。そう言おうとしたあかねを、友雅は唇を奪うことで制した。
 啄むような口づけをして顔を離すと、頬を膨らませたあかねがいた。
 顔を朱に染めて、器用にも照れながら怒っているようだ。
「君は自分の存在がどういうものか知らないようだね。こんなにもまばゆい光で私という闇を照らすというのに」
 あかねは紅茶を一口すすり、気を落ち着けてから、
「プレゼントは記念になるんだよ、大切な思い出に。だから記念になるものに祝いたい気持ちを込めて贈りたいの。そのものが、あげる人を喜ばせるものだったなら嬉しいじゃない」
 そう言ってあかねはそっぽを向いてふてくされた。
 友雅はやれやれとため息をつきながらも、その可愛らしさに目を細めた。
 そして、はたとなにかを思いつき、人の悪い笑みを浮かべた。
 カレンダーに視線を走らせてはさらにほくそ笑む。
「あかねがそこまで言うのなら、お言葉に甘えてみようかな……?」
 その一言に、あかねはえっと振り向く。
「私の願いを、かなえてくれるかい?」
 友雅の企んでいる笑みには気づかず、あかねは嬉しそうな表情を見せた。
「はい! 私にできることならなんでも言って下さい!」
 あかねの返事に満足げにほほ笑むと、友雅はあかねの耳元に顔を近づけて言った。
「では、誕生日の日は、一日私と過ごしてくれないか?」
「えっ!?」
「ずっと私のそばにいてくれると、約束してほしいんだ。学校が終わったらここへ来て、一緒に食事をしよう。ね、ずっと一緒に」
「は、はい……」
 それはいつもやっていることだ。今日だって学校帰りにここへ寄り、夕飯を一緒に作って食べた。
 何を言われるかと期待していただけに、あかねは少々拍子抜けして、気の抜けた返事をした。
 友雅の真意には気づかずに。
「さぁ、本当に遅くなってしまうから、今日はもう送っていこう。準備して」
 そういわれて、あかねは煮え切らないまま帰り支度を始めた。




「あ、結局プレゼント買ったんだ」
 土曜日、友雅の誕生日当日。
 休み時間にランにそう言われて、あかねはそうなの、とうなずいた。
「友雅さんに似合いそうなシャツがあったから、それにしちゃった。予算内だったし」
 あかねは嬉しそうに言った。
「それで? そのまま行くの?」
 制服を振り返って、ラン。
「まさか、せっかく誕生日パーティするんだもん。駅のコインロッカーに着替えをもって来てあるよ」
 ぬかりはない、とばかりに言うあかね。
「それでね。食事してからデートして、それから夕飯の買い出しとケーキを買って、友雅さんの家で一緒に夕飯をつくるのよ」
 その時、それまでランの後ろで興味なさげに聞いていた天真が変な顔をした。
「? 天真君、どうかしたの?」
「べつに…。何でもねぇ」
 不思議に思って聞くあかねに、天真はぶっきらぼうに答えた。
 そのとき休み時間終了のチャイムが鳴り、あかねはじゃぁねと嬉しそうに去っていった。
「あの様子じゃ、気づいてねぇな…………」
「そうみたい」
 あかねの後ろ姿を追いながら、ランは友雅の食えない笑みを思い出して肩をすくめた。
「めんどうなこと、引き受けちゃったかなぁ……」




 駅のトイレで着替えて、軽く化粧をして、あかねは友雅の待っている駅の待ち合わせロータリーに向かった。
 小休憩するタクシーにまじって、友雅も車を止めて待っていた。
「お待たせしました、友雅さん」
 小走りに近づいてくるあかねを見とめると、友雅も笑顔で返す。
「ごめんなさい、お待たせして……」
「大丈夫、そんなに待ってないよ。それにしても嬉しいね、私のためにそのような可愛らしい装いをしてくれるとは」
 学校帰りだから制服のままだろうと思っていた友雅は、嬉しそうに微笑んであかねの荷物を持った。
「まずは食事に行こうか。さぁ、乗って」
 二人は車に乗り込んで、駅の中心街を離れた。
 駅から少し車を走らせたところにある、洒落たレストラン。あかねのお気に入りだ。
 そこに入ってオーダーを頼むと、あかねは早速プレゼントを取り出した。
「友雅さん、誕生日おめでとう!」
 ごきげんでプレゼントを取り出すあかねに、友雅は形のよい眉をぴくりとあげ、ほほ笑んで受け取った。
「ありがとう。……中身は何かな?」
「えへへ、まだ内緒。開けてからのお楽しみです」
「なるほど、それは楽しみだ。帰ってからゆっくり開けさせていただこうかな」
「はい♪」
 そんなやり取りをし、友雅はあかねの贈った紙袋を小わきにおいた。
 今日は自分一人で夕飯を作りたいとか、ケーキはどこの店がおいしいとか、ほとんどあかねが話し、それに友雅があいづち返す。そんな感じの会話をしながら食事は終わった。
 あかねオススメの洋菓子店に向かいながら、車の中であかねは少し懴悔をした。
「本当はね、ケーキも作ってくるはずだったの。だけど失敗して焦がしちゃったから、ダメだった」
 ぺろっと舌を出して言うあかねに、友雅はくすくすと笑って、
「では、そのうちにご相伴にあずかれるかな? ぜひとも君の作ったケーキが食べてみたいしね」
「はい!」
 気を使ってのことだろうが、友雅がそう言ってくれたのが嬉しくて、あかねは元気よくうなずいた。
 友雅はそんなあかねを見て微笑んだ。
「さて、ここだね」
 洋菓子の店の前のスペースに路駐して、二人は店に入っていった。




「ほぉ、これは……」
 とは、家について、友雅があかねからもらった紙袋を開けたときに出た言葉だった。
 夕食の買い出しもして友雅の家に戻り、今はくつろぎタイムである。
「よかった、サイズ合ってて……」
 友雅の胸に簡単に合わせながら、あかねは安堵のため息をついた。
 ちょっと不安だったけど、ちゃんと友雅に合っている。
「ありがとう、大切に着よう」
 そう言ってあかねの頬に口付けると、あかねは照れた笑みを返した。

――ピンポ〜ン

 そのとき二人の時間を邪魔するようにインターホンが鳴り、友雅はやれやれと玄関へ向かっていった。
「誰だろ……?」
 ちらりと玄関を伺い見ると、男性が一人。会話からこのマンションの管理人ということが分かった。
「そういえば、来月に塗装工事があるって言ってたっけ」
 友雅がいろいろと難儀なことだとぼやいていたのを思い出す。それについて書類を持ちだし、いろいろと説明しているようだから、これは話が長くなるかも。
 そう思いながら、取り残されたあかねは紅茶のカップを手に取りちびちびと飲んだ。
 管理人と友雅の会話、そして秒針の音が耳に届く。
「………遅いなぁ」
 実際のところ、そんなに時間は経っていないのだが、やることがない時というのは時間が経つのが遅く感じられるものだ。
 気が付くと、カップの中身は空になっていた。
 もう一杯紅茶を入れようかと腰を浮かせて、あかねはふとテーブルのうえにおいてある小さめなビンに気づいた。
 それは友雅が紅茶などによく垂らしているリキュールというお酒。
 あかねも冒険心をだして紅茶に入れてみた事はある。とても甘くて上品な味だった。
「そういえば、素で飲んだらどんな味なんだろう……」
 あかねが酒に弱いため、友雅はあまりリキュールティーを許してくれない。
 ということは、強い酒なのだろう。
 そうは思ったが、好奇心が勝って、あかねはカップに一口分ほどリキュールを注ぎ、飲んでみた。
「ん〜! きつ〜ぅい」
 喉を熱く、甘い刺激が通過していく。
「でも、おいし〜」
 さすがに素でもう一口というマネはしなかったが、もう一杯紅茶を入れて、それに少しだけリキュールを注ぎ飲んでいた。
 知らずにあかねの頬は赤く染まっていく。
「待たせてしまったね」
 細かいことが書いてある書類を手に、友雅が戻って来たのはチャイムが鳴ってから20分ほど。
「あ、友雅さんお帰りなさ〜い」
 半刻にも満たない時間だというのに、帰ってきてあかねの頬が真っ赤なのに、友雅は驚いて眉を上げた。
「あかね、どうしたの?」
 熱でもあるのかと心配そうにのぞき込む友雅に、あかねはなんでもないとかぶり振った。
「と、言われてもねぇ……」
 先程まではあんなに健康そうだったのだから、この短時間になにか異変が起こったはずである。
 渋い顔をする友雅の鼻を、甘いアルコールの匂いがかすめた。
「……コレ、飲んだの?」
 先程とはうって変わって呆れた顔をすると、あかねはエヘヘと笑った。
「ちょっと、だけ」
 ペロリと舌を出すあかね。
 アルコールが回ってきたのか、ろれつもじょじょに怪しくなってきていた。
 友雅はため息をついて、
「全く、君という人は……」
 友雅は台所へ行って水を汲んで来ると、紅茶のカップの変わりにそれを持たせて言った。
「ほら、水を少し飲みなさい。これでは夕食を作るどころではないねぇ」
 苦笑しながら友雅はくすくすと笑った。
「私が作るんですぅ〜」
 酔うと寝てしまう癖をもつあかねは、まわらない口でそれだけ言うと、目を閉じて寝てしまった。
 その幼くも可愛らしい様子に、友雅はほほ笑んであかねの頬に口づけを落とした。
「手のかかるお姫様だ」
 あかねをそっと抱き上げると、友雅は自分の寝室に運び、ベットに横たえた。
「ラン殿に頼んだ事が、違う意味で役立ってしまったねぇ……」
 そう独りごちると、ベットに腰掛けあかねの顔にかかっている髪をよけた。
「夜もまだ来てないうちから一人で夢路に旅立ってしまうとは、私の月はずいぶんと薄情なのだね」
 言っている言葉とはうらはらに、とても穏やかな口調。
 あどけない寝顔が、友雅に静かな安心感を与えてくれる。
「でもまぁ、こんな日もたまにはいいかな」
 今日はこの月は隠れないから。
 今日はずっと自分のそばにいるから。
 自分の願ったことを、かなえてくれる月だから。
「今は、お休み。私のそばで」




 薄暗闇の中、あかねはうっすらと目を開けた。
「う……んん……」
 寝返りをうち、反射的に枕元の時計を探した。
「あれ〜……?」
 置いてあるはずの時計がない。
 それもそのはず、ここはあかねの部屋ではなく、恋人である友雅の部屋なのだから。
 そこに時計がないという意味を悟って、あかねはあわててベットから身を起こした。
「やばっ!」
 リキュールが予想以上に強い酒だったために、酔って寝てしまったのだろう。
 少しだけ頭が重いと感じるが、二日酔いには程遠い。
 部屋の中には、あかねの他誰もいなかった。
 リビングに通じるドアから、変化する明かりが見える。きっと友雅がいるのだろう。
「おや、おはよう」
 ドアを開けると、友雅がテレビを見ていた。
 部屋の明かりはついていない。光といえば、友雅が見ているテレビに光だけ。
 そのため、寝室から見えた光が変化していたのだった。
「ご、ごめんなさい、私…! っていうか、今何時ですか!?」
「10時」
 慌てるあかねに、友雅は部屋の電気をつけながらさらりと答えた。
「えっ!! やだ、そんな時間!? 早く帰らないと…!!」
「どうして?」
「どうしてって……!」
 特に門限があるわけではないが、10時といえばほとんどが家に帰り着いている時刻だ。
 友雅とのデートのときも、何だかんだで9時には家まで送ってくれる。
「家に電話しなきゃ!」
 さぞ着信が入っていることだろう。
 そう思いながら荷物の中から携帯電話を取り出すと、電話帳を呼び出して家へ電話をかけようとした。
(あれ……? 着信が一件もない)
 不思議に思いながらも、番号を呼び出した瞬間、友雅があかねの携帯を取り上げた。
「ちょ、何するんですか、友雅さん!」
「大丈夫。心配などしてないから」
「なんでですか!? だってもう10時過ぎて……」
「外泊すると言ってあるから」
「えっ………?」
 あまりに予期していないことを言われ、あかねの頭は真っ白になった。
(ちょ、ちょっと待って…。友雅さんがうちに泊まるって言ったって事!? っていうかお父さんは許してくれたの!? びっくりしてたんじゃ……!?)
 考えが頭の中を駆け巡り、あかねは混乱した。
「うそ!」
 結局、父が高校生の身で恋人の家に泊まることを許してくれるような人ではないことに思い当たり、あかねは否定した。
「からかわないでください。早く帰らなきゃ!」
「今日は一緒にいてくれると言っていたじゃないか」
 友雅はとぼけた顔で言う。
 その言葉に、あかねは一週間前のことを思い出した。

「誕生日の日は、一日私と過ごしてくれないか?」

「あれは、そういう意味だったんですか!?」
「他にどんな意味があると?」
 友雅はくすくすと忍び笑いを漏らしつつ言った。
「とにかく、それとこれとは次元が違います!」
「だが、早く帰って来いという電話は入っていないようだよ?」
「だって…」
 なおも焦るあかねに、またしてもさらりと友雅は言った。
「君のお父上達は、君は天真の家に泊まっていると思っているから大丈夫だよ」
「……………へっ?」
 あかねのまぬけな顔に、友雅はおかしくてたまらないという風に喉の奥で笑った。
「だからね、ラン殿に頼んで、今日はラン殿の家に泊まることにしておいてもらっているんだよ」
「ど…っして…?」
「私のところに泊まると、正直にお父上に言ってよかった?」
「ダメです! ……じゃなくて……もう! 何を企んでいるのかちゃんと教えてください!」
 混乱したあげく怒り出したあかねに、友雅はくっくっと笑った。
「私の願いをかなえてくれると言ったくせに、帰るつもりでいた姫君に、説明して分かるのかな? まぁ、このまま私の元へと留まることを是とするなら、お話ししよう」
 からかうような口調の裏に、とても張りつめた何かがあるような気がした。
「でも……でもでも……」
 このまま留まるということは、友雅と一夜を共にすること……?
 友雅を伴って現代に帰って来て早数年。思えばいまだ肌を重ねていない。
 いっそ気の毒なほどに真っ赤になってうろたえるあかねに、友雅は穏やかに笑った。
 幼い恋人が何を考えているのかを思い、安心させるようにささやく。
「ふふっ、別に何もしやしないよ。ただ、君のそばで、眠りたいだけなんだ」
 それとも、それも嫌?
 友雅の声は静かで深い海のようだ。
 そう言う友雅をあかねは上目使いで見上げ、頬に朱を走らせたままながらも、小さくだが何度も首を振った。
「今宵は私と一緒でいい?」
 あかねは少しためらった後、こくんと頷いた。
「……よかった……」
 心底安心したように目を細めると、友雅はあかねを優しく抱きしめた。
「とりあえず、まずは食事をしないか? 君が起きるのを待っていたから、私はお腹がすいてしまったよ」
 茶目っ気たっぷりに言う友雅に、あかねは苦笑しながら、またしても頷いたのだった。




「情けない男の、ちっぽけな独占欲だよ」
 なぜこんなことをしたのか。
 再び聞いてきたあかねに対する、それが友雅の答えだった。
 夕食をとり、談笑して、今は寝ようとベットの中だ。
 言葉にしたとおり、友雅はあかねに今まで以上を求めることはなかった。
 未だドキドキしてはいるが、どことなく幸せな気分である。
 友雅はあかねの方に向き直り、自分の頭を腕枕に乗せながら言った。
「君と会い、一緒にいる時間。とても幸せな時間だ。だが別れもやってくる」
 闇になれた目が、友雅の寂しげな笑顔を捕らえる。
「君には帰るべき家がある。そこへ戻るのは当然だ。だから送っていく。だがそんな時、ふと不安になってしまうのだよ。君が、また私のところへ来てくれるのかと……」
 本当に情けない話だよ。と、友雅は笑った。
「今私は、君と同じ世界で、同じ時間を生きているというのにね」
「友雅さん………」
「君を送って帰り着いた後、君の笑い声が聞こえないことがひどく寂しくて。そして朝、君を腕の中に抱いて迎えられたらと夢見て……」
 不安を抱える男の独白を聞いているのはあかね一人。
 今は何にも邪魔をされない静かな時間だった。
「それで、こんなことをお願いにしたの……」
「君を信じていない訳ではない。君は私に笑いかけてくれる。……ふふっ、分かってはいても感情は理屈で割り切れないものなのだね」
 知らなかった。友雅がこんな想いを抱いていたなんで。
 いつも余裕を持っていて、自分なんか一生追いつけない大人だと思っていた。
「私のことを、愚かに思う?」
 我ながら情けないねと笑いながら友雅が聞いた。
 あかねはううんと首を振った。
「だた、ちょっとびっくりしました。友雅さんって、いつまでも追いつけない大人だと思ってたから」
「そうかい?」
 それきり、静かになった。
 少しでも動いた拍子のきぬ擦れの音が響くほど、静かだった。
 互いの鼓動が聞こえそうだ。
「ねぇ、私の家は確かにあるけど……」
 あかねは薄闇の中で、友雅の瞳を探して言った。
「友雅さんのところも、私の帰る場所っていうのはダメかな?」
 友雅は少なからず驚いて、目を見開いた。
 そして次の瞬間、喉の奥で笑い始めた。
「友雅さん?」
 友雅の笑った意味が分からず、少しと惑った口調であかね。
「いや、ずいぶんと嬉しいことを言ってくれると思ってね。君はまだ少女だと思っていたけれど、どうやら君方が大人のようだよ」
 自分で言った言葉に、友雅は、ああそうだったとつぶやく。
 遥かな異世界で、自分はこの少女のこんなところに魅せられたのだったと思い出す。
 開いたばかりの華の蕾の、しびれるような甘い香りに誘われたのだと。
 友雅はあかねを腕の中に収めた。
「いつでも帰っておいで。私の腕の中に。……愛しているよ」
「私もです」
 二人は、この日初めて互いの温もりを抱いて眠った。
 良い夢を見た後には、柔らかな朝日が二人を誘い、至福の中で目覚めるのだろう。

 

〜あとがき〜
 友雅さん、誕生日おめでとう!
 去年サボった分、今年はちょっとアダルティテイストにキメてみました。
 って、友雅@水蓮にアダルティあかね@水蓮をあげても、自分の中で「ああ、そうですか」って終わるだけじゃん(笑)
 ま、書いてて楽しかったからいいか。
 いろいろと入れたいエピソードが入り交じって、途中混乱・中断してしまいましたが、なんとか誕生日企画に間に合った………(ほっ)
 ご購読、ありがとうございました。
 二人の甘々なこれからを祝って(笑)

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