遊園地・後編
背後で大きな音がして振り返ろうとした瞬間、あかねは友雅に腕をつかまれ引っ張られた。 「えっ、な、なに?」 うろたえるあかね。 友雅はそんなあかねには構わず、順路をずんずん進んでいく。 「と、友雅さん。天真君たちが……」 そう声をかけても友雅はなにも言わない。 そしてとある廊下に隠れられそうなカーテンの影を見つけると、あかねを押し込み自分も影に身を潜めた。 「友雅さん! どうしたのってば!」 「しっ、静かに」 「だから何で……んっ!」 なおも言い募ろうとするあかねに、友雅は己の唇で蓋をした。 あかねの体から、少しずつ力が抜ける。 そのまま影に身を潜めていると、やがて天真の声と、通路を通過する複数の足音が聞こえ、そして遠ざかっていった。 「行ったかな……?」 あかねの唇を解放し、順路を見て友雅は言った。。 「っは、友雅さん! どういうつもりですか!? 天真君たち行っちゃったじゃないですか!」 「静かに。今うるさくするとばれてしまうよ。どtりょも、また口を封じて欲しいのかい?」 「!………」 なおも叫ぼうとするあかねを、流し目と笑みで封じ込め、友雅は笑った。 先ほどを思い出し、真っ赤になったあかねの肩に腕を回し言った。 「なぜこんなまねをしたか。……この状況で、わからない?」 考えてごらん。と問われ、あかねは小さく言った。 「……二人っきりに、なるため……」 「正解」 友雅は機嫌よく言った。 「せっかくのデートなのに、ずっと団体行動をするのは寂しいと思わないかい? 私は君と二人っきりになりたくてしょうがなかったよ」 そう言った後、友雅はわざとらしくため息をついて続けた。 「だがまぁ、君がそんなに天真たちと行動を共にしたいのなら仕方がない。急いで追いかけるとしようか」 友雅は順路に足を向けた。 「待って……」 小さい制止の声。 それを聞き付け、友雅はあかねに背を向けたまま満足げにほほ笑んだ。 「どうしたんだい? 早く追いかけなくては、はぐれてしまうよ?」 何を言わんとしているかをわかっているくせに、友雅はわざと聞く。 あかねはなんだか、答えるのがとてつもなく悔しくなった。 それでも小さく言う。 「……このままで……いい………です」 「そう、それはよかった」 白々しくもそう言って、友雅があかねの腰に腕を回す。 「……いじわる」 あかねはボソッとつぶやいた。 心外だね。という風に友雅が笑みを向ける。 あかねはすねた顔をして言った。 「あとでおいしいケーキ、ごちそうしてくださいね」 「ふふ、分かったよ」 本当は嬉しかった。 天真に邪魔をされるたびに、人前で抱きしめられる恥ずかしさを味あわずに済んだと安堵していた。 そしてそれ以上に、残念だと感じていたから。 しかし、分かっているくせに、わざわざ言わせようとする友雅が、なんだか悔しい。 あかねはひとつわがままを言って、精一杯の強がりを見せた。 それがなおも友雅を喜ばせているとは知らずに。 それからあかねと友雅は、残りの順路をゆっくりと進み、出口に向かった。 「友雅さん、天真君たちが出口で待ってたらどうするんですか?」 最初は怒っていたけど、気分が切り替わるとなんだかわくわくしてきた。見つからないように逃げるなんて、なんだかスパイにでもなった気分である。 「大丈夫、心配いらないよ。詩紋がうまく誘導してくれているはずだから」 根回しはしてあるからと言う友雅に、あかねはいつの間にそんなことを、と呆れた。 一応出口にいないことをそっと確認し、ホーンデットハウスの外にでる。 「さて、どこへ行こうか?」 先程昼食を取ったばかりなので、お茶をするにはまだ早すぎる。 あかねは絶叫系ではないいくつかの乗り物に友雅を連れ回し、そしてカップルには評判のカフェに向かった。 「ここのシフォンケーキはおいしいんだって、雑誌に載っていました!」 嬉しそうににこにこと話すあかねを、穏やかな笑みで見つめながら、友雅は店内に入った。 窓のない壁際に席を取り、ひとときの談笑の時間。 「さっき乗ったやつ、きれいでしたね〜。夜の部屋なんか、星に吸い込まれそうだった……」 うっとりと話すあかね。 「この世界には、本当におもしろいものが多いね。怨霊も何やら変わったものばかりだったし」 「あれは外国のお化けだから……」 そんな話をしていると、注文していたケーキが来た。 「おいしそう〜」 ハートマークの飛び交いそうなあかねの言葉に、友雅は苦笑しながらコーヒーをすすった。 「この世界の女性は、本当に甘いものが好きだね」 「そうですか? でも、おいしいじゃないですか。幸せな気分になれるんですよ」 そう言って、ケーキを一口、友雅に差し出す。 友雅はすっとあかねの手からケーキを食べた。 「おいしいでしょ?」 にこにことあかねが聞く。 「ああ、君に食べさせてもらえるなら、どんなものでもね」 「も〜。そういうことじゃなくって〜」 ぬけぬけとのろける友雅に、あかねは照れながらもしょうがないなぁという笑みを浮かべた。 「ふふ、わかっているよ。確かに、幸せだね」 しばらくアフタヌーンティーのひと時を過ごして、二人が外に出たときだった。 「あかね、走るよ」 突然友雅が言って、あかねは訳も分からずに走りだした。 「あ、見つけた! 待て!」 走りだす一瞬前、天真の声が聞こえてあかねは見つかってしまったことを理解した。 「コラ、あかねも!」 「ごめんね〜天真君。後でね〜」 心底楽しそうにあかねが叫び、二人は人込みへと消えていった。 「くそっ、見失ったか……」 「ちょ、もう、お兄ちゃん! 少し休も……」 ぜーはーと息を切らせながら、ランが追いつく。 ランが立ち止まったためにこれ以上の追跡がかなわず、天真は軽く舌打ちをして頭をかいた。 「あ、あそこのケーキおいしいんだよ。ね〜少し休もうよ〜」 疲れた顔をして、ランは詩紋に振り返った。 「ね、詩紋君。疲れたよね」 「えっ! ああ、はい。そうですね」 友雅に、簡単には追いつけないように妨害を頼まれている詩紋。次はどうやって話をそらすかと考え事をしていたため、ランの問いかけに驚き、想わず究極に怪しい狼狽を見せてしまった。 「? どうしたの? そんなに慌てて……?」 「 つぅか、お前さっきから変だよな。腹でも痛いのか?」 二人がいぶかしげな顔で詩紋をのぞき込む。 詩紋はさらに慌てて言った。 「そそそんなことはないですけど…。その、確かに疲れましたね、少し休みましょうか」 おたおたしながら話す詩紋に、天真は眉をピクリとあげて、言った。 「……お前、何か隠してねぇ?」 ぎくり。 詩紋の背後にそんな音が聞こえたような気がして、天真は詩紋に詰めよった。 「そうなんだな? そうか、あいつらの居場所知ってるだろ!?」 ………なんでこんなところだけ勘がいいのだか。 そんなことを思いながらも、詩紋はため息をついて降参した。 「とりあえず、お茶でもしましょうよ。次の予定まで少しだけど時間あるから」 そう言って、三人はランの希望で友雅たちが入っていたカフェに足を向けた。 「もう夕刻か。早いものだね」 カフェを出たときは、まだ空が赤みかかっていただけだったが、みやげ屋を冷やかしていたうちに朱が深くなってきていた。 「本当だ。あの……、そろそろ観覧車、行きませんか?」 上目使いでおねだりするあかねに、友雅は腕の中に抱え込みたい衝動に駆られながらも返事した。 「そうだね、行こうか」 二人は連れだって観覧車がある園内の西に向かった。 「ふっ、よくきたなぁ!」 観覧車に並ぶ列が見えたと思ったその瞬間、聞き慣れた仲間の声を耳にして、友雅は顔をしかめ、あかねはバレちゃったというようないたずらな笑みを浮かべた。 現れたのは言うまでもなく天真たち三人。 もう逃がさないぜ、というように得意げな天真の後ろで、ひたすら拝み倒す詩紋も見える。 そしてその横には苦笑するラン。 友雅とあかねは、顔を見合わせてため息をついた。 「そろそろ降参しましょうか?」 「……仕方がないねぇ」 ゲームセット。だがそれなりに楽しかった。 団体行動に戻ろうとも、あかねが観覧車に乗りたいのには変わらない。 一行はそのまま観覧車の列に並ぶことにした。 ちょうどいい時間まで後少し、これならきれいな夕日が見れそうである。 ゆっくりと並んで、順番が来た。 今度こそ野望を阻止するため、天真は友雅とあかねのゴンドラに乗るつもりでいた。……のだが……。 「あかねちゃん避けて!」 「あ! てめぇ! 何しやがる!」 乗ろうとしたその瞬間、天真はランと詩紋に押され、そのまま倒れ込むようにしてゴンドラに乗った。 もちろん同室はランと詩紋。 「おまえら……」 あかねを先に乗らせその次に乗り、絶対に邪魔できない状況にしたと思ったのに、思わぬ伏兵がいたものだ。 上手くいかない事態に、天真は少し情け無さそうな表情でつぶやいた。 「お兄ちゃん。こんなカップルスポットで馬に蹴られたくないでしょ?」 いすに座りなおし、ランはぬけぬけと言った。 「たぁくなぁ〜。並んでるとき妙におまえらがこそこそと話してると思ってたんだ……」 「すみませ〜ん」 苦笑しながら詩紋。 ランは呆れて言った。 「もう! お兄ちゃんもいつまでもぐちぐち言ってないの! 大体あかねちゃんはもう彼氏持ちになったのよ! いつまでもちょっかい出だしてないでよ」 「ば! ちょっかい出してねぇよ。友雅の邪魔をしてるだけだ」 あかねのことは普通の友達だ。 少々赤くなりながらも天真ははっきり言った。 「っていうか、なんでそんなに邪魔するんです?」 「趣味だ」 問いを向ける詩紋に、間髪入れず天真は答えた。 「ああそう…………」 なんだかバカらしくなって、ランは視線を外に向けた。 「わぁ〜、きれい〜」 美しい夕日。 観覧車が少しずつ少しずつ高度を上げていく中。比例して夕日の景色も美しくなっていく。遊園地の風景が眼下に広がり始め、それはとても幻想的な光景だった。 ランの歓声につられ、天真たちも外を見、歓声をあげた。 「きれ〜」 「絶景だな」 先程までのドタババタはどこへやら。 一気に和やかムードに包まれて、三人はしばし夕日を見つめていた。 ゴンドラがてっぺん付近に差しかかったとき、詩紋はふと隣のゴンドラを見つめ、ほほ笑んだ。 「ねぇ見て。あかねちゃん、嬉しそう……」 友雅に肩を抱かれながら、同じく夕日を見ている。 「やっぱり、友雅さんと一緒にいるときのあかねちゃんが一番かわいいよね」 にこにことつぶやく詩紋をよそに、天真はあかねを見つめ、つぶやいた。 「…………帰りは電車で帰るか…………」 最低限聞こえるような小さなつぶやきに、ランと詩紋は顔を見合わせ、ほほ笑んでうなずいた。 「あかねちゃん避けて!」 いきなりそう言われたが、なんとかあかねは反応して、少し避けた。 ランと詩紋が突進し、あかねの次に乗ろうとしていた天真を巻き込んでゴンドラの中に倒れこんんだ。 「えっ えっえっ!?」 びっくりするあかねをよそに、一瞬で悟った友雅が、係員に言った。 「閉めて! 早く!」 そう言われておたおたしながら係員がドアを閉める。 ぼけっとしたまま友雅に促されて次のゴンドラに乗る。 見ると前のゴンドラから、ランがピースをしているのが見えた。 「えっと〜」 「なかなか粋なことをしてくれる」 ゴンドラの定員は四人。 なので二、三に別れることになったまではいいのだが、天真が邪魔するためにこちらに乗る事になっていた。 さんざん逃げ回った後だったので、しょうがないかとあきらめていたのだが、どうやらランたちが気を利かせてくれたらしい。 あかねは嬉しくなって、友雅と顔を見合わせ笑った。 「ほらほら、友雅さん。きれいでしょ〜?」 高度が上がるにつれ見えてくる美しい景色に、あかねは得意げに友雅に言った。 「そうだね。美しい。まるで空に吸い込まれていくようだね」 セピアに色づく空気の中で、恋人たちは身体を寄せ合った。 友雅の腕に肩を抱き寄せられ、あかねは幸せな気分で頭を預けた。 「友雅さん、大好き」 こんな気分のとき、なぜ意味もなく告白したくなるのだろう。 「私も、愛しているよ」 返ってきた友雅の言葉に、あかねはますます幸せになった。 そしてゆっくり顔を近づけて、口づけを交わし合った。 「あれ? 誰も…いない……」 ゴンドラから降りて出口に向かうと、そこには天真たちの姿が見えなかった。 天真たちのが前のゴンドラだった。ということは後ろにいる訳がない。 なのに出口で待っていないというのは、どういうことなのだろう。 「トイレにでも行っちゃったのかな?」 でも、一言言う時間くらい待っていても良いはずだが……。 友雅と二人で手持ち無沙汰に立っていると、あかねの携帯がメールの着信を告げた。 「あ、ランちゃんからだ……」 メールを読んで、あかねは不思議な顔をした。 「どうしたんだい?」 あかねの様子にいぶかしんで、友雅はあかねに声をかけた。 あかねは無言で携帯の画面を友雅に向けた。 おみやげ買ってから、電車で先に帰ります。ばいば〜い♪ 「おやおや」 メールを読み終わり、友雅は眉を上げてほほ笑んだ。 「どうしたんだろう…いきなり」 首をかしげるあかねの肩に腕を回しつつ、友雅は言った。 「まぁ、せっかく二人にしてくれたことだし、この先は心置きなくデートといかないかい、姫?」 嬉しげにほほ笑む友雅を見て、あかねも嬉しそうにほほ笑んだ。 「はい!」 夕日も沈み、これからは恋人たちの時間。 二人はもうすぐ始まる夜間パレードに、飲み物を買って向かった。 そして始まるパレード。 闇の中にいくつも踊る光。 あかねはその光に浮かび上がる友雅の顔を見つめた。 「?」 あかねの視線を感じ、どうかしたのかい? というふうに視線を向ける友雅に、あかねはとびきりの笑顔で答えた。 「ううん。幸せだなって思って!」 愛しい者の笑顔に、友雅もやはりうっとりするような笑顔で返した。 「私もだよ」 そして光の踊る暗闇の中、まわりの人に気づかれないように、そっと口づけを交わした。 |
〜あとがき〜 ラブコメです。とってもラブコメです。ラブでコメなんです。 やっとこ後編をお届けできます。 リクして下さった橘こもとさま。拒否るってもささげます(爆) つうか、長くなってしまいましたね。読むのが大変だ、ごめんなさ〜い。頑張って読んでくださると嬉しいです |
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