2年目のクリスマス

「それで〜、彼がドライブに連れてってくれるんだ〜」
「私、レムリアで食事〜!」
 テンション高くクリスマスの予定を自慢しあう友人たちの横で、あかねはこっそりため息をついた。
 皆、いかに自分の過ごすクリスマスがロマンチックかを話すのに夢中だが、彼氏のいない自分は、どうも付いていけないようだ。
「で、あかねは?」
「は?」
 自分には関係ないと思っていたせいか、唐突に話が向けられても反応できなかった。
「なにマヌケな声出してんの? だ〜か〜ら〜、クリスマスの予定!」
「ああ、予定ね……」
 まるで脅迫するかのように顔を近づけながら問う友人に、あかねは苦笑しながら「ないよ」と答えた。
「うそー!!」
 信じられない。というように友人たちが振り返る。
「ホントだよ。だって私、彼氏いないし」
『えー!?』
 今度はその場にいた友人全員が、びっくりして声を上げた。
「うそ!? ホントに!?」
「え、だってあかね、森村君は!?」
「アンタ、本当に女子高生!?」
 口々にいろいろなことを勢いよく言われ、あかねは少し引いてしまった。
「ほ、本当だよ……。天真君とは、ただの友達だし」
「信じらんない〜! あんなに仲良いじゃん」
 それはきっと、他の人には言えない、不思議な体験をしてきた仲間だから。
 そう思ったが口には出さず、本当にただの友達だと曖昧に笑っておいた。
「じゃぁさあかね。うちの部活のパーティ来ない? 野球部とバスケ部と合同だし、うまくすれば彼氏できるかもよ? まずは出会いだよあかね君」
「別にいいよ、出会いなんて」
 どうでもよさげにあかねが言うと、友人たちはまた信じられないと騒いだ。
 こういう時、あかねは自分の中に冷めた自分を発見する。こういう時とは、友人たちと恋だの愛だのの話をしているとき。
 なぜだろう。そんな冷めた自分は、やりきれない想いに縛られている気がする。
「あかね? あかねってば聞いてる?」
「えっ!? あ、ゴメン」
 友人の声で、いきなり思考の海から引き上げられた。
「も〜。あかねってば、こういう話ししてると時々変だよね。なんかあったの?」
「あ、それとももう好きな人がいるとか?」
 その友人は、なんの気なしに言ったのだろう。
 だがあかねは、その言葉を聞いてはじけるように顔を上げた。
「な、なに?」
 その友人は少なからず驚いたようだ。
「あ、ゴメン……」
「もしかしているの? 好きな人」
 さっき一瞬浮かんだのは、あの人の顔。
「いるならダメ元で告っちゃえって! クリスマスだけど春になるかもよ?」
「別に、好きかどうかはわからないんだ。そんな風に考えたことなかったし……」
 あかねは言葉を切り、窓の外の晴れた空を見上げた。


「ただ、会いたいなって」





 夜、あかねはリビングでテレビを見ていた。
 見ていたというより、眺めていたという方が正しいであろうか。チャンネルはクリスマスイルミネーションの特集をやっていたが、たいして見ていなかった。
 心の中にあるもやもやとした気持ちが、なんとも心地悪い。
「あ〜あ」
 やりきれなくなって声を出してみたが、なにも変わりはしなかった。
 このような気持ちは、今までに何度も体験した。正月、バレンタイン、ホワイトデー。恋人たちが過ごすイベントの時期だ。たぶんこれは偶然じゃない。
 このやりきれない気持ちはなんだろう?
 恋人と過ごす友人たちが羨ましいのか。いや、違う。
 そんな小さな気持ちじゃない。この気持ちは……。


 叶わないことを望み続ける不安。


「ただ、一度会いたいだけなのに」
 以前はこんなとき、自然と涙がこぼれていた。しかし今では枯れてしまったようにただ空虚なだけ。
 この虚しい気持ちに、このまま消えてしまえばいいのにとさえ思う。
「やれやれ、このように暗い心の中では、ゆっくりとたゆとうていることさえできぬな」
 そんな声が聞こえたが、あかねは幻聴かと反応しなかった。
「我が神子、息災か?」
「だ、誰!?」
 再び聞こえた声。そして自分の前に現れた人物に、あかねは心底驚いて声を上げた。
「ひどいな、私を忘れるとは。ではこれでどうか?」
 胸の奥で鈴の音が鳴った。なつかしい。
「龍……神……?」
「さよう」
「ど……して……?」
「私はそなたの心に宿る者。そのように泣いてばかりいては、おちおち寝てなどいられなくてな」
「泣いてなんか……」
 泣いてなんかいない。涙はとっくに枯れてしまったのだから。
「そうか? 心の中であんなに泣いているのに気づかぬのか?」
「えっ?」
 そう言われた瞬間。あかねの目がら涙がこぼれ落ちた。
「えっ? ど、して……」
「そなたが見ないふりをしていた心に気づいたからであろう。で、どうした? 我が娘よ」
 そう聞いてくる龍神の声は、とても落ち着く音色だった。父のようであり、母のようでもあった。
 そして、あの人の声にも似ているような気がした。
「今日、友達に好きな人がいるかって聞かれたとき、友雅さんの顔が浮かんだんです。でも私、友雅さんのこと好きか、わからなくて……」
 違う、そんなんじゃない。そんなことを言いたい訳じゃない。
「友雅さんの顔が浮かんで、でもすぐ消えちゃって、忘れなきゃって思ってるとまだ浮かんじゃって……」
 私はなにをしゃべっているのだろう。何が言いたいんだろう。そういえばさっき口に出した気がするのに、言葉が出てこない。
 龍神は黙って待っていた。あかねの本当の願いを。


「私………友雅さんにもう一度会いたい……」


 口に出したとき、彷徨っていた自分の心を、やっと捕まえた気がした。
 好きかどうかとか関係なく。ただもう一度会いたい。
「そうか……。だがもう一度あの世界に行くことはできぬ。そなたには時空を曲げるすべを持たない」
 そんなこと、分かってるもん。
「でも会いたいの。もう一度、せめて一日だけでもいいから」
 今まで忘れようとしていた心を取り戻したせいか、あかねは開き直る余裕が少しできたようだ。涙に濡れてはいるが、揺るぎない瞳で龍神に告げる。
「ふむ、一日だけか……。よかろう」
「えっ?」
 どうしたの? と不思議そうな顔をするあかねの目に龍神は手を当てた。
 泣き腫らした目に、龍神の手は冷たく、心地よかった。
 龍神から与えられるその安らぎに、あかねの意識は遠のいでいく。
「一日だけなら、私が力を貸そう。だたし、一日だけ」
 遠くに龍神の声が聞こえる。
 何を言っているの? それはどういう意味?
 朦朧とするあかねの意識は、龍神の言葉を理解するすべを持たなかった。
 朧げに問うあかねの声に、龍神はただほほ笑んで消えていった。
「!?」
 かくんと首を揺らし、急激に覚醒する。
 自分のいる場所は家のリビング。付けっ放しにしていたテレビは、違う番組になっていた。
 辺りを見回しても、もちろん龍神はいない。
「……なんだ夢オチか……」
 ため息をついてテレビの電源を落とす。
 少しがっかりしたが、少しだけ心が軽くなっているのを感じ、あかねはほほ笑んだ。
「さ! お風呂入って寝よ。明日は終業式だし!」





「はぁ? なんだって?」
 あかねの言った言葉に、天真はいぶかしみながら聞き返した。
「だからぁ、龍神に会ったような気がするって……」
「いつ、どこで、どうして?」
 心底うんさくさげに問う天真に、あかねは拗ねた表情で答えた。
「昨日の夜。リビングで。どうしてか……は、忘れちゃったけど」
「まさかまた面倒なことになるとかじゃねーだろうな……」
「それは違うと思う。なんとなくだけどね」
「ふ〜ん」
 確信はないがと言う割にはしっかりと否定するあかね。
 天真は寝そべっていた体を起こしてあかねの表情を見た。
 ここは天真の部屋。二人のほかに詩紋とランがいる。
 せっかくのクリスマスにも全員浮いた予定はない。元宮家と森村家の親は不在。そんなわけで、クリスマスパーティよろしく夜通し遊ぼうということになっていたのだった。
「それで?」
「それでって?」
 先を促す天真に、あかねは首をかしげた。
「だから、龍神と会ったからどうしたっていうんだ? その先があるんじゃないのか?」
「なんか予知したとか、変な気分とか、そんなのないの?」
 横で聞いていたランも、心配そうに口を挟む。
「うんん。ないけど」
 一応報告しておこうと思っただけなのだと、あかねは言った。
「でもさ。あかねちゃん、笑うようになったよね」
 同じく横で聞いていた詩紋が、そんなことを言った。
「えっ!? そう?」
「うん。前は……少しだけ寂しそうな感じがした。なんか良いことあったんじゃない?」
「う〜ん」
 詩紋の言葉にあかねは眉を寄せて思い出そうと試みたが、手から落ちる雫のごとく流れていってしまう。
「なんか……なにかを思い出したような気がする……。あとなんか約束した気が……」
「おいお〜い。大丈夫かよ、龍神の神子?」
 天真が苦笑して突っ込む。
 あかねはほほ笑んで答えた。
「大丈夫だよ。いやな感じ全然しないし。問題ない問題ない」
「……ソレ、泰明さん見たいだね」
 詩紋のその言葉に、みんな一斉に吹き出した。


――シャン


「!?」
「どうした、あかね?」
 唐突に笑いを引っ込めて反応したあかねに、天真がいぶかしんで聞いた。
「今、鈴の音しなかった?」
「しないけど?」
「おいおいおい、やっぱ大丈夫じゃねーんじゃねぇの? ヤバイこと起こんなきゃいいけどな」
 天真には答えず、あかねはしばらく考え込んだ。そして唐突に、
「ごめん、私帰るわ」
「はぁ!? 帰るって、お前……」
 いきなりどうしたんだ? と言いたげな天真にあかねは、
「なんか、呼ばれてる気がするよ。大丈夫、変な感じは全然しないから」
 そういって早々と帰り支度を始める。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て。つかもう12時になるぞ!?」
「でも、帰りたいの。ごめんね、パーティに水さしちゃって」
 みんなが呆気にとられて見守る中、あかねは帰り支度を終えてしまった。もともとまだ泊まり用具を出していなかったので早い。
「本っ当にごめん! おやすみ」
 そういって勝手知ったる天真の家を出て行く。
 門を出てしばらくして、バイクの音が後ろから追いついて来た。乗っていたのは天真。
「こんな遅くに一人で帰るなんて危機感がねーのかお前は。送ってやるよ、乗れ」
 そう言うとヘルメットをあかねに投げてよこした。
「ありがと、天真君」
 あかねはにっこり笑って礼を言うと、ヘルメットを被り、天真の後ろに乗り込んだ。
 天真が前を向いたままつぶやく。
「ま、ほっとけねぇからな」





――シャン


 鈴の鳴る音が聞こえた気がして、友雅はふと顔を上げた。
 だが、彼の周りは変わらず夜の静寂と雪の降る音のみ。
「気のせいか……」
 そう言って友雅は飲みかけの盃を傾けた。
 鈴の鳴る音で思い出すのは、あの少女のこと。
 くるくる変わるその表情を、自分だけに聞こえる鈴の音に不安を抱いて曇らせていたのを、友雅は覚えている。
 気丈にも脅えを隠して無理にほほ笑むその表情は、気づいたら咲いていた大輪の花を思わせた。
「ふっ…、昔のことを………」
 友雅は自嘲気味につぶやいた。
 かつて彼が使えていた貴い少女は、あるべき場所へ帰っていった。それからどれほどの時が経ったのか……。
 今が二度目の冬であるのは覚えている。それなのに昨日のことのように記憶は鮮明だ。
 あの少女の存在は、友雅にとって掛け替えのないものだった。
 しかし、まさか私が……という思いから、あるべき場所へと戻る彼女を引き留めないで見送った。それを……後悔しているのか?
「後悔は、もうしないと思っていたのにね」
 そう自分は、流されるままに人生を歩んでゆくものだと思っていたから。通り過ぎたものには執着せず、心なく生きてゆくのだと。
 でも、今でも会いたいと願う。叶わないのに。
 もし会えたのなら、伝えたい思いがあるのに……。
「今宵は、一段と月がきれいだ。……まるで君のようだよ……」
 つぶやいた瞬間、ふいに友雅はめまいを感じ目を閉じた。
 持っていた盃を取り落とし、落ちた音が静かな室の中に響く――はずであった。
 その音がしなかったことに不審を抱き、友雅は鈍く痛む頭を押さえながらうっすらと瞳を開いた。
「な!?」
 そこに見えたのは転がった盃でもこぼれた酒でもなく、見たこともないような複雑な柄の布。
 薄暗く、室内の静かさはさほど変わらないが、コチコチと規則正しい音がする。
「ここは……どこだ……?」
 呆然とする友雅に答えをくれる者は、ここにはいなかった。





「少し……一緒にいようか?」
 そう天真が言ったのは、あかねの家の門前だった。
 ヘルメットを返し改めて礼を言ったとき、少し躊躇しながら言ってきたのだ。
「大丈夫だよ〜」
「でも、また召喚されたり……なんてことにならないとは言えないだろ?」
「うん。……でも大丈夫だよ。いやな感じしないって言ったでしょ? それに、天真君も詩紋君も八葉なんだから、召喚されちゃう時は一緒だと思うけど?」
 明るく言うあかねに、不安の色は微塵も現れてはいなかった。
「怖いこというなよ、オイ」
 その笑顔を見て安心半分、不吉なコメントに苦笑半分。天真はあかねの頭をわしゃわしゃと撫でて、ヘルメットを被った。
「じゃな。何かあったら夜中でも構わないから電話しろよ」
「うん、本当にありがと。ごめんね」
「じゃ、おやすみ」
 天真の後ろ姿とバイクの音が遠ざかっていくのを見送って、あかねは家に入った。
 玄関に荷物を置くと、リビングのハト時計が鳴くのが聞こえた。12時になったのだ。
 その時、ふいにあかねはめまいを感じてよろけた。
 置いた荷物の上にへたりこんだため床にキスすることにはならなかったが、体のバランス感覚が少しおかしい。
 あかねは頭を振ってなんとか立ち上がった。
「やだな〜、疲れてんのかな。違う意味で帰って来て正解だったかも」
 あかねはめまいが完全に収まったのを感じ、ほっとため息をつくと履物を脱いで上がった。
「あ、お風呂掃除してないじゃん。めんどくさいな〜」
 ほてほてとリビングの入り口まで歩き、ドアをあけた。
「お風呂さぼっちゃお……う…かな……」
 けだるげにドアを開けた、そのままの姿勢で固まった。何か、あるべきはずのないものが見える。
 そんな。だって。この人がここにいるはずがない。
「ゆ……ゆめ……?」
 そう、これはきっと夢だ。都合のいい夢。
 かろうじてそれだけ絞り出し、呆然としたままその場に制止しているあかね。
 そしてそのあかねが見つめている人物もまた、呆然としたままつぶやいた。
「神子…殿?」
 その声知ってる。いつも聞いていて心地いいと思ってた。
 目の前の人物がゆっくり近づいてくるのが分かる。だがあかねは反応を起こすことができなかった。
 友雅は信じられないと言うふうに瞳を見開きながら、恐る恐るあかねに近づき、ためらいがちに手を伸ばしその頬に触れた。


――温かい。


 二人が思ったのはそれだった。
「ほ……本物?」
 友雅を見上げながらつぶやくあかね。その視界がふいにふさがれた。
 友雅に抱きしめられたのだと気づいたのは、それから数秒が経ってから。力強い腕の力でわかった。
「……会いたかった……」
 切なげに言う友雅から、ゆるやかに侍従の香りが香ってくる。
「ほ……本物だぁ〜」
 目に涙がたまり始めたのを感じながら、あかねも友雅に抱き着いた。
 二人はしばらくそのまま抱き合っていたが、あかねが身じろぎしたのを合図に、友雅はあかねを抱きしめていた腕を解き、その手をあかねの頬に移動させた。
「どうか顔を見せておくれ。……君の顔が見たくてしかたがなかった」
「私も。その……会えるなんて思わなかったから……」
「ああ、泣かないで。せっかくなのだ、笑っておくれ」
 あかねの頬を伝い落ちる雫を指先にすくいながら、友雅はほほ笑んで言う。
 友雅の願いに答えて、あかねもゆっくりほほ笑んだ。





「もう一度、君に出会えるなんて嬉しいね。私はずっと君に言いたいことがあったから……」
 記憶の中の顔よりもずっと艶やかに笑って友雅は言う。
 あかねは言いたいこと? という風に首をかしげて、
「その大切さ、存在の大きさに気づかないで、伝えられなかった言葉だよ」
 友雅はいたずらっぽく笑ってあかねの耳元でささやいた。


――君が好きだ。愛しているよ。


「………………えっ……?」
 一瞬何を言われたのかわからなくて、理解するのにしばしの刻を要した。
 そして次の瞬間、瞬時にして顔中を朱に染め上げた。
「えっ!? ええっ!? えええ〜っ!?」
 友雅の粋な告白とは正反対に、すっとんきょうな声を上げるあかね。
 すると友雅は、すこし寂しげな顔をして、
「迷惑……だったかな?」
 それでも友雅の声は戯れのような軽い調子で、にわかにあかねを混乱させた。
「めめめめ迷惑なんてことはないですけどっ! ででででも、でもでも……」
「でも?」
「…………とっ、友雅さんにそんなこと言ってもらえるなんて……思わなかったから」
 照れたままうつむいて言う。
 真っ赤な顔のあかねを見て、友雅はふっと笑った。
「もう一度会いたいと、抱きしめたいと思っていたのだ。こんな奇跡が起こるなんて……」
「あっ」
 奇跡。そう聞いた瞬間。忘れていた約束を思いだした。


――一日だけなら、私が力を貸そう。だたし、一日だけ。


 龍神と交わした約束。
 なぜ忘れていたのだろう。いや、もしかしたら忘れさせられていたのかもしれない。なぜ? なんのために?
 だが、あかねにはわからなかった。
「神子殿?」
 あっ、と小さく叫んでから思考の海に沈んでしまったあかねに不信感を覚え、友雅がいぶかしんだ声をかけてきた。
「……どうかした?」
 顔を上げると心配そうに顔をのぞき込んでいた友雅と目が合った。
 どう話していいかわからず、えっと…とまごつくあかね。
「龍神に会ったんです」
 そしてあかねは、昨日龍神に会ったことを、できるだけ話を整理して友雅に説明した。
「そう……そんなことがあったの」
 あかねたそっと息をはいた。まだ記憶にあやふやな部分があったし、説明が苦手でもあったので、無事説明できたことに一安心したのだ。
 今二人は、ストーブのついたリビングで、ソファに座っている。もちろん、あかねが促したのだ。立ち話も何だからと。
 友雅は説明を聞き終えてしばらく考え込んでいたが、やがて口を開いて、
「では…………私はまた元の世界に戻るのだろうね」
「えっ!?」
「君とずっと一緒にいることはできないのだろう。また、別れる時がやってくる」
「あ…………」
 あかねは今気づいた事実にショックを受けた。
(そっか……私が一日だなんて言ったから……)
 だがしかし、"一日"という条件があればこそ、龍神が力を振るってくれたということは明白だ。
 あかねがなんとも言えない、というような複雑な表情をすると、友雅は苦笑してあかねの頭に手を置いた。
 慰めるように軽くぽんぽんと叩かれ、うつむき加減だったあかねが、友雅を見上げた。
 ゆっくりと顔を上げたあかねに、友雅は笑みを向ける。
「今は、この一日の奇跡を楽しむことにしないかい? また会いたいとつらい気持ちが待っているかもしれない。それでも、私は龍神に感謝したいと思うよ?」
 行き場のなかった想いを、伝えることができたから。
 ね? というふうに友雅はあかねの顔をのぞき込んだ。
 その優しい笑みに慰められるように、あかねもゆっくりとほほ笑んだ。
「はい!」

続く

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