いい旅ゆめ気分
あかねはドキドキしていた。 そりゃぁ、初めて見る恋人の寝顔なんだから、ドキドキしないってんだったら乙女じゃない。 ちなみに作者は乙女じゃないからドキドキしないと思う(笑) ランに渡されたデジカメを握り締め、布団の周りをそっと回り込む。 「寝顔だぁ〜〜」 イノリの寝顔を見て、当たり前のことをつぶやくあかね。 いつも好奇心いっぱいに輝いている瞳が閉じられているせいか、いつもより落ち着いて……大人っぽく見える。 (エヘヘ) デジカメで一枚写真を撮る。写った写真とその寝顔を見比べて、あかねはほにゃほにゃと表情をゆるませた。 (……………) ちょっとキスしたくなってきた。 だってすぐそこに無防備な恋人の寝顔があるんだもの。 やましい想いに頬を染め、ちらりとランたちの方を見ると、ランはどこに持って来たのか眉墨で、天真の顔に落書きを始めていた。 そしてランのすぐ横には頼久。止めたものかどうしたものかとおろおろしている。 つまり、あかねの方は見ていない。 (ほっぺに……ちょっとだけ……) さっきの二倍以上胸を高鳴らせ、あかねはイノリの頬に顔を近づける。 「ん………?」 素敵なタイミングでイノリが目を開けた。 「のあぁ!?」 「んきゃぁ!!」 目を開けたとたんそこにあかねの顔があって、イノリは盛大に驚いた。 そしてそんなイノリに驚いて、あかねもまた盛大にのけぞった。 「ああああああかねぇ!?」 えっ、何!? 一体何がどうしてこうしたんだ? んでもって今はどこで何時でどうしたんだ!? 完全に頭が真っ白のイノリ。 あかねは顔を真っ赤にしてうつむいたままだ。 「な〜んだ、起こしちゃったのか〜」 二人を知ってか知らずか、イノリの声にこちらをむいたランが残念そうに言う。 しかもその声の大きさに、寝ていた天真と詩紋も起き出して来てしまったのだ。 「な!? お前らいつのまに!?」 コレは天真の驚き。 詩紋はというと、部屋に女子がいるのを見留めると、寝癖などを簡単に直したりして、あわてて身繕いを始める。紳士だね。 「お兄ちゃん。とりあえずソレ、だらしない」 「うわっ!!」 いつの間にやらあかねに近づき、デジカメをもらったランが、そうつぶやきながらパチリと一枚撮った。 「てめぇ、今の消せ! つかお前ら出てけ!!」 天真が布団を引っ被りながら怒鳴る。 「しょうがない。バレちゃったし、そろそろ行こうか、あかね」 身繕いに慌てる者二名。真っ白になって固まってる者一名。どうしたものかとおろおろしている者一名を置き去りにし、とりあえずあかねとランは部屋を出ることにした。 というより、真っ赤になっているあかねがランの言葉に一も二もなくうなずき、率先して部屋から逃げた、という方が正しかったかもしれない。 何にせよ、収穫は大漁ということで。 「あかねあかね。見て見て! ホラ、お兄ちゃん」 「ぶっ…!」 場所は再びゲレンデ。 昨日と同じく板を借りに行った男たちを待ちながら、あかねとランは先程撮ったデジカメの写真をプレビューして見ていた。 ランが見せたのは、天真の寝起き姿。 しかし、ただの寝起き姿と思ったら大間違い。ランが眉墨で落書きをした後の、あの、天真だ。 しかも素敵に間抜け顔。 「これ、ベストショットだよねぇ〜」 そう言って笑うラン。 あのあと旅館を出るときこってりと絞られたのだが、反省の色はカケラもない。まぁ、女の子というものはそんなものだが。 今日は帰る日。といってもギリギリ2時頃まで滑る腹でいたので、昨日とさほど変わらないテンションで一行はスキー場へ。 「ねぇねぇ、何見てるの?」 「二人? 俺たちと一緒に滑らない?」 こういう場所には必ずと言っていいほど出没する人種。すなわちナンパだ。 「え〜〜っと」 あかねがどう答えたものかと口ごもっていると、男たちは畳み掛けるように誘って来た。 「可愛いね〜。君たちと滑れたら一生の思い出になるな」 「よかったらさ、昼メシおごるし。ね、行こうよ」 「結構です」 にっこりと迫力のある笑みでラン。 しかし相手には通じないようだった。 「失礼ですが、どちら様ですか?」 「私たちにもごちそうしてもらえるのかな?」 割って入って来たのは鷹通と友雅。 自分たちより背丈のある(平安人のくせに)二人に威圧され、ナンパ男たちはほうほうのていで逃げ出した。 「やれやれ、ふざけた連中だ」 お前もな。 「今、何か言ったかな?」 うわぁあ!? すみません!! 取り消しますのでそんな凄みのある笑顔でこっち向かないで下さい!! 作者と友雅のやり取りなど気にも留めず、鷹通は心配そうに二人に声を掛けた。 「神子殿。ラン殿。お変わりはありませんか?」 「はい、大丈夫です。ありがとうございました」 褒められるのは嬉しいが、ああいう輩はちょっと遠慮したい。 あかねたちは、知らず肩につめていた力を抜き、ほっと息を吐いた。 「ところで神子殿。イノリとケンガでもしたのかな?」 唐突に友雅に聞かれ、あかねはえっ? と聞き返した。 「いやね、先程からイノリが、君に物申したいような態度をとっているから」 言うまでもなく、寝起きのことだろう。 あかねは思い出して再び顔を赤くした。 そんなあかねを見て、友雅は小さく笑った。若いねぇ。 「もし何か隔たりがあるなら、壁は早めに崩しておく方がいい。今日は少し滑ったら帰らなくてはならないのだろう? 思い出は多い方がいいのではなかったかな?」 あかねの頭をぽんぽん、と叩きながら言う。 そして友雅は、では、今日も個別行動をするとするかな。じゃ、時間に。とか言いつつさっさとどこかへ消えてしまった。 う〜ん。わかってはいるんだけどね。とあかねは心の中で思った。 自業自得とはいえ、何やらトホホな気分のあかねだった。 「イイイイイノリ君。いいいい一緒に乗ろ」 意を決してイノリに話しかけたのは、リフトに乗る直前。 「このままだと、雰囲気で詩紋君と乗りそうよ?」 事情を話していたランに半ば押し出されうようにして、何とか話しかけた。 「あ、あかね………」 それ以外は何も言わず、拒否もされなかったので引っ張ってリフトに乗ってしまった。 (何か私、ずうずうしくなってない?) 女は度胸。一度腹を据えるとそんなもんだ。 「あのさ……あかね」 腹を据えると言っても、キスのことは言えない。のでしばらく二人は黙っていたのだが、やがてイノリが口を開いた。 「な、何?」 やっぱり来たか。 できればこのまま忘れてくれるといいな〜と淡い期待を胸に抱いていたのだが、叶わなかったようだ。 あかねはなるべく平静を装った声で返事をした。 「あの……さ。朝、どうしてお前がいたんだ? その……おれの……隣に……」 言いながら赤くなるイノリ。 いーね、いいやねー若いもんは。かー、青春だね〜。 「ちょっと黙っててください」 はい、わかりました。 「えっ? 何?」 「あ、ううん。なんでもない」 あかねはパタパタと手を振りつつ、なるべく当たり障りのないところから話始めた。 「みんなの寝起きをレポートしてくれって、作者に頼まれて、それでランとみんなの寝顔の写真を撮ってたの」 「うん」 そこまではここに来るまでの話の流れでわかっていた。 「それで?」 「う……それで……。イノリ君の寝顔見てたら……」 その………。もじもじもじもじ。 もじもじ君(死語)になってしまったあかねを、イノリは辛抱強く待った。 だがいつまでも言いそうにないあかねに、イノリは下を向きつつ言った。 「隠し事……すんなよな?」 「う……。えーとえーと」 どう説明したものか。 悩んだのは一瞬でやめて、あかねは態度で示してしまった。 「えっ!?」 頬をかすめていった柔らかくて温かいものは……? 頬を手で押さえて振り向くイノリに、あかねは気の毒なくらい顔を赤くして言った。 「だから! イノリ君の寝顔見てたら、キスしたくなったの!」 それきり二人はうつむいて顔を赤くしたまま黙っていた。 山頂に着く手前、やっとイノリが口を開いた。 「あかね」 「ん?」 上げた顔の頬の部分に、温かいものが当たる。 それがイノリの唇だと気づくまで、たっぷり三秒はかかった。 「さ! 最後まで思いっきり滑ろうぜ!!」 にかっと笑ったイノリの顔が赤いのは、寒さのせいだけじゃない。 あかねは理由なく嬉しくなって、思いきりの笑顔を見せた。 「うん!」 「と、いうわけで今回の旅行は幕を閉じました。とっても楽しかったです。また機会があったら行きたいな。できれば……イノリ君とふたりっきりがいいな」 「あかね。何ひたってんのよ。荷物下ろすの手伝ってよ」 「あ、ごめん。ではみなさん、読んでくれてありがとうございました。では!」 そう言ってあかねはみんなの元へ走っていく。 ねぇ、どうでもいいけど、私へのおみやげは〜? ねぇ〜ってば〜! |
〜あとがき〜 今までで一番、ふざけている作品です。 いや、いつもふざけているのは分かってますが、いつにも増してふざけてます。 しかも最後の最後でラブでコメ。さらに言うならしょぼい。 これを作品と呼んでいると、とてつもなくおこがましい気分になりますが、まぁそれはそれ、これはこれ(と自分をごまかしてみる) ちなみに、一部の人にこぼしていた真面目騒動話ではないですので安心してください。どこをどう取っても真面目じゃないしね。 あああ〜〜、皆さんの反応が怖い〜でも知りたい〜〜。自分ギャグ書いてていいのかよくわからないんで。 私の作品にどシリアスラブを期待していた方は(いたら)、さぞ驚くことでしょう。すみません、どちらかというとこっちの方がより水蓮本体に近いです。 あああ! すみません見捨てないでください。ウィンドウ閉じないで!! せ、せめて弁解……ぐはっ(強制終了) |
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