Cafe on doy of autumn.

「友雅さん!」
 待ち合わせ場所のカフェテラスで本を読んでいた友雅は、自分を呼ぶ声に顔をあげると、小走りにこちらへ向かう待ち人に片手を上げて応えた。
「やぁ、あかね」
「ごめんなさい、お待たせしちゃいました?」
「いや、たいして待ってないよ」
 謝るあかねに微笑むと、友雅は軽く息を弾ませた彼女にイスをすすめる。
「それで、レポートは提出してきたのかい?」
「はい。なんとか間に合いました〜」
「そう、それはよかった。お疲れさま」
 達成感に安堵した顔をするあかねに、友雅も小さく笑みを零した。
 最近の二人は互いに予定があわず、今日は久しぶりのデートだ。約二週間ぶりに顔を見るが、あかねの微笑みは変わらず可愛らしい。
 だがその顔色は、ほんの少し精彩を欠いていた。おそらく原因は、ついさきほど提出してきたレポートだろう。努力家のあかねの事だから、休む時間を削って頑張ったのだろうから。
 想像がつくだけに、友雅は微苦笑を浮かべながらあかねの頬をそっと撫でた。
「少し顔色が優れないね……」
「えっ? へ、変な顔してますか?」
 ここへ来る前にもちろん鏡をチェックしてきたのだが、レポート明けのヒドイ顔だっただろうか。
 もちろんそれを指して言っただけではないと友雅は笑った。
「そうではないよ、あかね。君はいつでも可愛らしい。ただちょっとお疲れの表情が、気になっただけなんだ」
「……もぅ、友雅さんってば」
 いつでも誉め言葉は絶好調な彼に、あかねは頬を染めて俯く。
 恥ずかしげに伏せられた顔の下から見上げてくる瞳が、一層可愛らしかった。
「本当だよ、私のかぐや姫。課題を頑張る君は好きだけれど、あまり根を詰めすぎないようにね?」
 優しく額の髪を掻き分けられ、軽く口付けが落とされる。そのくすぐったさに、あかねがころころと笑った。
「はぁ〜い。気をつけま〜す」
「ふふっ、本当かな?」
「本当ですってば〜。……あっ! そういえば私、飲み物買って来なくっちゃ」
 テラス席だったからうっかり話し込んでしまったが、カウンターへ行って飲み物を買ってこなくては。
「ああ、行って来よう。紅茶でいいかな?」
「あっ、大丈夫です! 自分で行きますから!」
 立ち上がりかける友雅に笑いかけて、あかねは足取り軽くカウンターへ向かう。さっきまで疲れた気分だったけど、友雅に会って一気に気分が軽くなったようだった。




「はい、どうぞ?」
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
 お茶の乗ったトレイを傾けないようにと注意深く歩いていたあかねは、友雅の声にふと顔を上げた。
 視線の先では、友雅が見知らぬ女の子に何かを渡している。少女はうっすら頬を染めながら、礼を言って足早に去っていった。
「──どうかしたんですか?」
 テーブルにトレイを置いて、あかねは友雅に聞いた。
「いや、落し物が転がってきたから、拾ってあげたんだよ」
「へぇ〜」
 相槌をうちながら自分の席へと戻っていく彼女を視線で追うと、彼氏らしき男の子が笑って迎えている。
(……彼氏いるんだ)
 こっそり安堵のため息を零す。そしてそれを自覚して、あかねはちょっと落ち込んだ。
(……私ってば、変なこと考えてるんだから……)
 その気持ちは嫉妬ちだ。自分も久しぶりに見た友雅の微笑みを、他の女の子が見ていると思うと、ちょっともやもやした気持ちになる。嫉妬ちを妬く必要などないとわかっているが、まぁ乙女心は繊細だということだ。
 気分を落ち着ける為に買ってきた紅茶を一口。
 こっそり深呼吸をすると、自分を微笑ましく見つめている友雅に気がついた。
「……なんです?」
「ふふふっ。いや、可愛らしいと思ってね」
 すべて理解していそうな友雅の笑顔に、あかねはバツが悪くなって聞く。
「……き、気づいちゃいました?」
「勿論。君のことなら何でもわかるよ。しかし嬉しいね。あれしきのことで、君が嫉妬ちを妬いてくれるなど」
 からかう口調ではなく、友雅は本当に嬉しそうだ。
 その様子にあかねももやもやした気持ちが晴れて、照れくさそうに笑った。
「ごめんなさい。だって、しばらく会えなかったから、ちょっとしたことでも何か気になっちゃって……」
「謝る必要などないよ。それは私も同じだからね」
 ちょっとの期間会えないでいただけなのに、ものすごく離れていた気がする。相手の些細な変化に心が揺れて、些細なふれ合いが心を震わす。互いが互いに依存しているようだけれど、それは決して不快な感情じゃなくて……。
「どうせなら、今日は二人っきりで過ごせる場所に行けばよかったかなぁ」
 可愛らしい提案をするあかねに、友雅の表情もほころぶ。
「ならば、お茶を飲み終わったら移動しようか? それで私の家でゆっくり過ごすのはどうかな?」
 君も疲れている事だし、二人でのんびりと。
 友雅の提案にあかねも瞳を輝かす。
「はい! ぜひ!」
 そうして二人は、家についたら何をするかの小話に花を咲かせ始めたのだった。

 

〜あとがき〜
 2006年11月にありました遙かのオンリーイベントで無料配布冊子としてお配りした作品です。
 イベント前のゴタゴタで、原稿出力後にデータをポイしちゃって、今ごろ打ち直してアップしてます(苦笑)
 同じテーマでヒノ望も書いたのですが、よろしければそちらも読んでいただいて、同じステージでそれぞれバカップルする連中を感じていただけたら嬉しいです。
 それにしても、友あかだとヒノ望ほどの破壊力はないなぁ。まるで熟年夫婦話を書いているようですよ。

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