探し人を見つけたのは、陣からそう離れていない木の根元だった。
無防備といっていいほど健やかに寝入っているのは、彼の今一番大事な人。
「こんな所にいたよ〜」
近くとはいえ陣の外。こんなところで寝ていては、敵の間諜に襲われてしまうとか……考えないのだろうか。
「まったくなぁ、人の気も知らないで……」
彼は幹にもたれて眠っている人物の前にしゃがみこんだ。
いつも目で姿を追ってしまう。
だから、いつも君が何を考えているのか、一番に察する事ができる。
でも彼女は不思議な人で、ふとどういう行動にでるかわからなくなる時がある。
今みたいに、ふらりとどこかへ行ってしまう事も、ある。
姿が見えなくなって、どうしようもなく不安になって、やる事を放り出して探しにきてしまった。
と思ったら、こんなところで寝ているし……。
自分の焦りが情けなく思えて、彼は盛大なため息をついた。
「あ〜あ」
目の前で寝ている彼女を見ていると、自分もなんだかあくびが出てきた。
彼女の隣に腰をおろし、幹に背をあずける。
とりあえず自分がいれば、目が覚めたらあの世とかいうことにはならないだろう、たぶん。
最悪、目が覚めたら二人そろってあの世かもしれない。
死ぬのは嫌だ。だけど二人なら、それもいいかなんて思ってしまう。もちろんそうならないための努力は、惜しむつもりないけど。
彼女の長い髪が、風にはこばれて彼の胸元へかかった。
さらさらと音がしそうなそれを、彼は嬉しそうに指に絡める。
ふと彼は空を見上げた。
今日はとても暖かい。空はこんなに青いのに。こんな日に洗濯なんかしちゃったら、太陽のぬくもりが残る夜着で、穏やかな眠りがえられそうなのに。
彼はうつらうつらしながらそんな事を考えた。
だが残念なことに、洗濯は彼の役割ではない。
あ〜あ。口のなかでつぶやいて、彼は傍らに視線を戻した。
自分が来ても、座り込んでも、彼女は気づかない。
疲れているんだろうな。彼女の頬をくすぐっている髪をよけてやりながらそう思う。
──戦。
彼らがしている事は殺し合いだ。そんなものに巻き込まれた少女は、いつも凛として、強い瞳で前を見据えて耐えている。
細い体にこの重圧。つらくないはずがない。それでも諦めない強さで。
そんな彼女が目を閉じると、こんなにもはかない印象になるものか。
彼の心に、なぜか焦燥が駆け抜けた。
──彼女ハ、最後ノ瞬間モ、コンナ顔ヲスルノダロウカ?
今すぐに大切なものだけ抱えて、逃げ出せたらいいのに……。
でもそれは無理な事とわかっているから、逃げ出しはしない。
その代わりに全霊をかけて、大切なものを守りぬきたい。
「なんだかなぁ〜」
こんな思い、自分には重圧すぎる。
本当の自分はどうしょうもなく弱い奴で、彼女の重さよりずっと軽いはずなのに、それに押しつぶされそうになっている。
彼は傍らの少女に寄り掛かった。
「望美ちゃん……」
君の勇気を、どうか俺に分けてくれ。
すべてが終わる、その時まで。 |
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