+ LOVE 定額 +

九郎と望美の場合
 11月1日の朝。新たな一日を告げるかのように、望美の枕元で携帯が鳴りだした。
 望美はベットの中から携帯に手を伸ばすと、着信者をみて幸せそうに微笑んだ。
「もひもひぃ〜」
 半分寝呆けている声で応えると、携帯の向こうから呆れたようなため息が聞こえてきた。
『なんだ、まだ寝ていたのか? 今日も学校があるんだろ? まったく、夜更かしでもしていたのか?』
 聞こえてきた九郎の声に、望美はますます笑みくずれる。
「ちゃんと寝ようとしましたよぉ〜。ただちょっと、待ち遠しくて眠れなかっただけで……」
『お前な……』
 100%呆れた声を聞いても、望美の笑みは変わらない。なにがそんなに嬉しいのかというように、締まりのない顔で九郎の声を聞いていた。
 ともすれば「うへへへへ」と聞こえなくもない笑い声。
『なんだ。気持ちの悪いヤツだな』
「だぁってぇ〜。九郎さんからのモーニングコールだと思うと嬉しくて〜」
 今日から『LOVE定額』とかいう新定額プランがスタートする。先月のうちから申し込みをしといたので、今の通話から適用されているはずだ。
『……こんな電話のどこが嬉しいのかさっぱりわからん』
 少し早起きして会えばすむ事だろう、と九郎は主張する。そちらの方が実際に顔を見られるのにとも。
 望美とてそのメリットがわからないわけではない。むしろそうしたいと思ってはいるのだ。
 しかし闘う女子高生には、朝の時間はとてつもなく短くて。だからちょっと早起きして〜なんていうのは大問題なのだ。
 単にねぼすけなのではという突っ込みはしないでいただきたい。女子高生だってそれなりに大変なのだから。
 ちなみに望美の主張は、とっくに九郎にお伝えずみである。……理解はされなかったが。
「朝一番で私の声を聞くの、九郎さんはいやなの?」
 未だにモーニングコールに乗り気でない九郎に、望美はちょっと意地悪して聞いてみた。
 携帯の向こう側の九郎は、案の定少し照れたような怒り声で応える。
『嫌なわけがないだろう! わかっているくせに聞くな』
「ふふ、ごめんなさい」
 でもつい、聞きたくなっちゃうんだよ。あなたが好きだから。
「私は朝一番に九郎さんの声が聞けて嬉しいよ。夜だって、お休みなさいって電話したい」
 朝と違って夜は、気軽に外で会ってお話〜なんてできない。望美は構わないが、どうせ九郎のことだ、「女人が軽々しく夜に外出するな」などと言うに決まっているし。
 せっかく定額プランに申し込んだのだから、使わなければ損。
『……どうでもいいが、したくは済んだのか?』
「えっ? きゃーーー!!」
 うっかりしゃべっている間に時間はどんどん過ぎていたようで、時計をみて望美は叫んだ。
 望美の慌てぶりを九郎が笑う。
『こういうお前の声が聞けるのなら、確かに悪くないかもしれないな』
「も〜、九郎さんの意地悪!」
 パジャマのボタンを外しながら、焦った声で望美。
『自業自得だ。遅刻などするなよ? バツとして居残りなんてことになったら、会える時間が減るんだぞ』
「わかってるよっ。あ、あれ? ドライヤーどこやったっけ?」

 ドタバタと慌しい様子の携帯の向こう側。
 九郎はふっと微笑み、ケガするなよといって通話を切った。
 明日は望美の方からモーニングコールをしてくれることになっているのだが、はたしてどうなることやら。

 

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