いい旅ゆめ気分
「ふぅ〜。食った食った」 「旨かったな〜。あのしゃーべっとってやつ、冷たくて甘かったな。また食いて〜な!」 青龍・朱雀の間。ここではごきげんの4人が、ゆったりとくつろいでいた。 「今は……9時かよ。中途半端だな、どうする、詩紋?」 「そうですね。でもやらないと、買ってきたお菓子とか無駄になっちゃいますよ。持って帰るのも大変だし」 「そうなんだよな〜」 この後宴会をする予定だった一同。予定には入れていたので、夕食を腹一杯食べることはなかったが、なにぶん時間がこんな時間である。 「頼久、お前はどう思う?」 「そうだな…。時間を置いてからでは、だめなのか?」 「あんまり遅くまで起きてると、明日滑れなくなっちゃいますよ」 「でも、せっかく用意したんだし。やろうぜ」 「そうだなぁ………」 天真が頭をかきかき悩んであると、ドアを叩く音がして、続いてあかねたちが現れた。 「この後どうする?」 それを今考えていたところだと、天真はあかねたちに説明した。 「そうだねぇ〜。でも、みんな結局遅くまで起きてるでしょ。なら同じなんじゃない?」 結局、鶴の一声こと神子の一声で、宴会案は続行。十時頃に、ということになった。 騒ぎ過ぎて、旅館の人に怒られないようにね。 と、いうわけで宴会である。 場所は宴会場……というわけにはいかないので(なにしろ時間が)、青龍・朱雀の間となった。 スキー場に着く前に仕入れておいた菓子、ジュース、おつまみ、そしてお酒などを並べて、みなさん上機嫌である。 しかし、いる人の約半分が雅な方々。なんとなくゆったりしたムードではありました。 「や〜ん。カワイイ〜vv」 女の子二人に黄色い声を上げさせたのは、泰明の連れて来たリス。 まさかこんなところで、しかもこんな季節にお目にかかれるとは思ってなかったのも手伝って、二人は夢中である。おつまみのアーモンドをあげちゃったりなんかして。 「あ! イノリ! てめ、酒飲んだな!」 「なんだよ、飲んじゃいけなかったのかよ?」 「ったりめーだ! この世界は20歳にならないと酒飲んじゃいけないんだよ!」 そんなこと言ってる天真のグラスに入ってるのも酒。 おいおいおい、アンタも未成年でしょうが。などと言いつつも、まぁ、今時の高校生は酒くらい飲めなくっちゃね。 ちなみに作者はあまりお酒はたしなみませんので、あしからず。 「でも、鷹通も飲んでるぜ?」 そう言いつつ、日本酒をコクリ。 「あ、本当だ!」 「お兄ちゃん、いいじゃない。お兄ちゃんだって飲んでるんでしょ?」 それに、某企業が出してる話じゃなくて、個人的な文章なんだから、そうそう法律に引っ掛かりはしないわよ。と、ラン。ミもフタもない。 ランちゃん。その通りではあるのだけれどもね、その、もう少しソフトな言い方とか……、その、なかったりしないかな?(汗) ランは誰もいない虚空を、じろりとにらみつつ、 「私をこんな女にしたのは、あなたのくせに」 …………………………はい、ごめんなさい。 気を取り直したランは、イノリの方を向き直り言った。 「それにしてもイノリ君、結構飲めるんだ」 この少年が飲めることに、少なからず驚いているようだ。 「ん? こんくらい普通だぜ? 正月とかにも飲んだもんな」 なるほど。たしかに祝い事のお神酒は、あの世界じゃ普通かもしれないね。 「ああ! 永泉様!」 ラン達がそんなやり取りをしていたとき、突然ドタッという音と、鷹通の声が聞こえた。 全員がいっせいに注目する。 見ると、赤い顔をした永泉が、真後ろにひっくりかえっていた。 「永泉様。しっかりしてください!」 鷹通が心配そうに揺り動かす。それを友雅が止めた。 「酒気にあてられて、酔っておいでのようだ。夜も遅いし、このまま寝かせて差し上げればいいだろう。頼久」 「はい」 ご指名を受けた武士は、腰を上げて永泉を抱き上げると、永泉が泊まるはずの隣の部屋に運んで行った。 「それに引き換え、泰明殿はけっこうお強いのだね」 友雅は、さっきから黙って器を空けている泰明に声をかけた。 「問題ない」 「さすが、『問題ない』方だね。この世界の酒もいけるのかい?」 「問題ない」 「泰明殿が飲み慣れているということは、晴明殿と、よく杯を交わされたのだろうか?」 「問題ない」 「?」 なにげに意味のあわない返答に、友雅は形の良い眉を少し上げた。 「泰明殿。今飲んでいるのは何かな?」 「問題ない」 想像通りの答えに、友雅は喉の奥で笑う。 鷹通がメガネの位置を戻しつつ、泰明の表情を伺い見る。 「や、泰明殿?」 「どうやらこちらも酔っておられるようだ、かわいいね」 こらえきれず、ついに笑い出す友雅。 そこへ、永泉を寝かして来た頼久が戻って来た。 「頼久。すまないけど、泰明殿も布団まで送って差し上げてくれないか?」 「? はい。泰明殿も酔っておられるのですか?」 「どうやらそのようなのです。これ以上飲むと、明日に差し支えが出るかも知れませんので」 泰明は、放っておいたらまだまだ飲んでしまうだろう。明日も予定がある以上、ほどほどにしておいた方が良い。 白虎組のおせっかいも、このときは正しかった。 知る人ぞ知る、泰明の限界。……まぁ、某CD参照とでも言っておきますか。 和やかな宴会も、部屋の主の半分と、我らが神子様がお眠りになったところで、お開きとなった。 あら? 詩紋君が出てこなかったわね。でも彼は、宴会で出来事を起こしてしまうような人ではないからね。良くも悪くも。 「あかね。あかね、起きて」 ランに声を掛けられ、あかねは朧げに覚醒した。 「う〜ん。今何時〜?」 「5時半」 「うぇ〜。まだ早いよ〜」 布団の中でごそごそやりながら、あかねは一向に起きる気配がない。 「…作者に依頼されてた、みんなの寝顔・寝起き特集するんじゃないの?」 「ああ!!」 早く起きなければいけない意味に思い当たって、あかねは勢いよく布団から起き上がった。 「あいたたたた。頭が痛い〜。なんで〜?」 起き上がるのと同時に起きた頭痛に、顔をしかめたあかね。ランは嘆息して水を差し出した。 「はい、お水。あかね、昨日イノリ君とどこか出掛けて、酔い潰れて戻ってきたじゃない」 「……そうだっけ?」 記憶にない。顔から血の気が引いていく。 「そうよ〜。イノリ君の話では、サワーをちょっと飲んだだけだけど。あかねってばアルコール慣れしてないね〜」 未成年なんだから当たり前でしょ! そんな反論もできないまま、ありがたくお水を受け取って飲み干した。そうすると少しは落ち着いてくる。 「ランこそ、なんで飲めるのよ〜?」 「一家で酒盛りは、うちの家風なの」 すまし顔で言うランに、あかねは再び布団の中へ戻りたくなった。 「それはそうと、みんなの寝顔、見に行くんでしょ?」 「あ、行くいく」 のそりのそりと用意し、二人は男部屋へ向かった。 女性部屋の隣は、白虎・玄武部屋である。二人は近くから行こうと、扉の前に立った。 「え〜と、カギカギ〜。どっちだっけ? あ、こっちか」 「ラン…………なんでカギ持ってるの?(汗)」 「これ? 昨日みんなが酔い潰れた後に、持ってきておいたのvv」 「そ、そうなんだ……」 それは窃盗罪になるんじゃ……。そう思ったが口には出さなかった。、ま、まぁ身内だし。 中にいる人を起こさないように、静かにカギを回しゆっくりと扉を開け、二人は中に入った。 「写真、撮る?」 「でも起きちゃうかもだし…」 さすがに声もひそひそ声になる。 部屋へと続くふすまを、音を立てないように慎重に開け、行動に細心の注意を払い部屋へ入っていく。 どきどきする心臓にスリルを感じて、二人は楽しげに笑った。 旅館には雨戸はない。したがって、もうすぐ昇ろうとする朝日が、微妙に薄暗い光を障子へ運んでくる。 部屋の主たちは侵入者に気づかないようで、部屋には四つの布団が並んでいる。とりあえず手前にいる二人をレポート。 「え〜、みなさん。わたしたちの目の前にいるのは、鷹通さんと永泉さんのようです」 「鷹通さん、寝相ないねぇ」 「ほんとだね」 鷹通は、おそらく布団に入ったときのままであろうという風の、ぴしっとした寝相をしていた。 しかしまぁ、鷹通もネオロマンスな人だけあって、なかなかにかわいい寝顔をしている。 「なんか、寝顔だけは19歳だよね」 少々明るくなってきたのを幸いに、デジカメで写真を撮る。デジカメの小さな電子音がして、写真は無事撮れたようだ。 鷹通の反対側にいるのは永泉である。やはり寝相は性格なのか、こちらもまっずぐな寝方であった。 「見て見て見てあかねぇ!! 永泉さんめちゃめちゃかわい〜よ!!」 「ほんとだよ〜。まったく、なんでこんなにかわいいんだろうね〜」 まったく、男のくせに無駄にかわいい人である。 あかねが写真を撮っているとき、ぽつりとランが漏らした。 「………どうでもいいけど、永泉さんの寝相が後ろ向じゃなくてよかった……」 同感だね。 鷹通の隣に寝ているのは友雅であった。こちらに背を向けて横向きに寝ている。 「みなさ〜ん。お楽しみの友雅さんで〜す」 「あかねちゃん、みなさんの、じゃなくて作者の、じゃない?」 「それは内緒って言われてるの」 ペロっと舌を出しつつ、あかねは友雅の寝顔を写真に撮ろうと、反対側へまわった。 友雅は浴衣を少々乱れさせ、まことに色っぽい寝相をしていた。 「うっわ〜」 なんだかなぁの笑みを浮かべつつ、ベストショットを撮ろうといろいろ位置を変えるあかね。 友雅の顔に近づいたとき、あかねは不意に引っ張られ、友雅の方へと倒れ込んでしんまった。 「きゃぁ!」 友雅の頭に激突するかと思いきや、あかねを受け止めたのは厚い胸板であった。 「あかね!?」 「殿方の部屋に侵入するとは、なかなか大胆な姫君だね。そんなに襲ってほしいのかな?」 「えっ、えっ? えっ!?」 女性専用のうっとりするような笑みを浮かべ、友雅はあかねを押し倒した。いつの間にか位置が逆転してしまい、なにがなんだかわからないままあかねは混乱してしまった。 どうやら友雅は狸寝入りをしていたらしい。 「いけない侵入者殿には、キツイお仕置きが必要だねぇ?」 「ちょ、ちょっちょっと友雅さん!?」 両手首をそれぞれ押さえられ、頬に口づけられてあかねは完全にパニクった。 そこへランが冷たく言い放つ。 「友雅さん、人のものに手を出していると、イノリ君と藤姫にいいつけますよ?」 藤姫の怒りは、火事や親父よりも怖い。 「おっと、それはそれは…」 苦笑しながらあかねを解放すると、友雅の反対側、永泉の隣に寝ていた泰明がむくっと起き上がった。 腹筋のみを使った、とても見事な起き上がりではありました。 「あ、泰明さん起こしちゃった」 「何を騒いでいるのだ」 「ご、ごめんなさい」 「私はお師匠と、林檎を食べていたのだ。札に力を込めれば紫色の花が咲き、一条戻り橋が見事な跳躍を見せるというのに…」 『は?』 「泰明……さん?」 一体どうしたのであろうか。こちらを振り向かず淡々と話す泰明は、どこか変だ。いや、どこかどころではなく変だ。 泰明の表情を伺おうと、あかねとランは泰明の正面にまわった。が、 「………………寝てる……」 泰明は普通に座ったまま目を閉じて寝ていた。そしてしばらくして、ゆっくりと布団に倒れ込み、再び寝息を立て始めた。 「どうやら、寝ぼけていたようだね」 「そ、そうですね」 やれやれというふうに友雅が言ったのを合図に、ようやく頭が動き出したあかねとランだった。 とりあえず写真を撮らなくてはと、あかねはシャッターをきった。 次の部屋である。 この部屋にはイノリがいる。恋人のまだ見たことのない顔を見たくて、あかねは意気揚々とドアの前に立った。 「ラン、早く開けて開けて♪」 ランが先程と同じようにしてドアを開けようとしたとき、以外にもドアは内側から開いた。 「きゃぁ!」 「えっ?」 ドアを開けたのは頼久であった。 もうすでに起きていたのか、しっかり着替えてしまっている頼久は、ドアの前にたたずむ二人を見て、心底びっくりしていた。 「み、神子殿とラン殿。どうかされたのですか?」 「えっと〜、その〜……」 「頼久さんこそ、もう起きていたんですか? みんなは!?」 起きてしまっていたら、寝顔が見れない。あかねは意気込んで聞いた。 「いえ、起きているのは私だけですが?」 「よかった〜」 「? ? ?」 なにか起こったのだろうかという顔をしている頼久に、二人は説明した。 「そ、そうなんですか……」 作者の意向…もとい乙女の夢が分からないらしく、頼久はぎこちなく首をかしげた。 「頼久さんこそ、どうしたんですか? どこか行こうとしてたんですか?」 「散歩でも…、と思いまして」 「こんな朝早くから?」 「私はいつもこのくらいですよ。これでも今日は遅い方です。剣の稽古をしないとどうにも落ち着かなくて……」 気分転換に歩こうと思ったのです、と頼久は恥ずかしそうに言った。 「そうだ! 頼久さんも一緒に寝顔覗きましょ!?」 覗くも何も、さっきまでこの部屋で寝ていたのだが……。天真たちの寝顔もとっくに見てる。 ……別に見たかったから見た訳ではないけど。念のため。 「いえ、私は……」 「そうですよ! 一緒にレポートしましょ!」 断ろうと思ったのに、どうにも乙女たちに押し切られてしまって、結局頼久は最後にくっついて行くことになった。 二人に引っ張られながら、頼久はポツリとつぶやく。 「なぜ……こうなってしまうのだろう?」 「みなぁ〜ん。ここにはお兄ちゃんと詩紋君、イノリ君が寝ていま〜す」 ランが寝込みを襲うバラエティー番組の司会を気取って言う。 白虎・玄武部屋と同じようにふすまを開けると、予想に違わずこんもりと盛り上がった三組の布団がある。 一つだけきちんと畳まれている布団は、頼久の抜け殻だろう。 「抜け殻って表現。ちょっとおかしくない?」 いいんだ。わかりやすいから。 「あ、そう」 「ラン〜。作者なんかかまってないで早く突撃しよぉ〜」 神子様。それ、ちょっとひどいです。どうせイノリの寝顔が待ち切れないんでしょうけど。 「あ、詩紋君だ。かわい〜」 手前に寝ていたのは天真と詩紋。詩紋の向こうにはイノリが寝ている。 向こう側を向いてはいたが、横を向き少しだけ体を丸めて眠る詩紋はかわいい。 「何かに似てるって思ったけどさぁ。アレだよね、子犬の昼寝に似てるよね」 「あ、そうかも!」 詩紋の寝顔を見ながら、ひそひそと会話をする。ランがこっそりとデジカメで写真を撮った。 「うっわ〜〜! 見て見てラン! 天真君すっごいセクシーなんだけど!?」 よく寝返りを打つのか、天真の浴衣は友雅よりも乱れていた。胸元などもはだけている。 「寝顔も……なんかすいも甘いもかみ分けた大人になったってカンジ!」 少し眉間にしわがよっちゃってるところなんか、トクにvv イノリの事も一瞬忘れて、あかねはランにミーハーに訴えかける。 「…………そりゃぁ、異世界行ったり失恋したりしたからね〜。精神的に成長したんじゃないの?」 身内はなかなか厳しい。 「あれ? 天真君、失恋したの?」 ランのコメントの中に聞き捨てならないものを発見し、あかねは驚いて聞き返した。 ランは"しまった"というような顔でいる。 「え〜、誰ダレだれ!? 天真君ってば全然人付き合いしないと思ってたのに、隅におけない〜」 にぶさは"罪"である。 好奇心剥き出し顔で聞いてくるあかねをランは半開きの目で見つめ、 「教えてあげない」 「え〜。ケチ! あ、頼久さんは知ってますか?」 あ、でも京の人じゃなきゃ知らないかな? そんな事を思いつつ、無理やり連れてこられたまま部屋の入り口に立ち尽くした頼久に話を振ってみる。もちろん小声で。 「え? 何がですか?」 「しー。だから、天真君の失恋相手、知ってますか?」 「えっ!?」 頼久はあかねの口から紡がれた言葉に絶句した。 「知ってるんですか?」 すると、京の人だったのかな? 「………………………………………………………………………………いいえ」 ウソつけ。 「な〜に、みんなして内緒にして。いいもん、あとで天真君に直接聞……」 「あかね!!」 「神子殿!!」 ランと頼久の声がハモった。ただし小声。 「お願い。それだけはやめてあげて。このとおりっ!!」 「神子殿、私からもお願い申し上げますっっ!!」 二人の剣幕にただならぬものを感じ、あかねはびっくりしながらコクコクと首を縦に振った。 「ほ、ほらあかね。次イノリ君、行ってこよう!」 話を逸らすように、ランはあかねにデジカメを押し付け送り出した。 「えっ? えっ??」 「彼氏の寝顔は彼女が独り占めするもんだよ〜」 無意味にテンション高く送り出すと(くどいようだが小声で)、ランははぁっとため息をつく。 「お兄ちゃんって………………………………かわいそうな人」 「私も、こればかりは天真に同情します」 なぜか、とてもしみじみとつぶやいてしまう二人だった。 |
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